今回は、エヴァンゲリオン新劇場版における、アダムスとリリスと正体(モチーフ)とその相互関係について考察します。
アダムスとリリスは共に熾天使
結論から言うと、アダムスとリリスは、共に熾天使(してんし・セラフィム)であり、その内リリスは神に反逆して地上に堕ちた堕天使ルシファー(ルシフェル)が、第13号機の素体となった「アダムスの生き残り」はルシファーの双子の兄弟ミカエルがモチーフになっていると考えます。
熾天使(セラフィム)とは
熾天使(してんし・セラフィム)とは、天使階級で最上位の天使であり、3対6枚の翼をもっているとされています。
「熾」は「火が盛んに燃える」ことを意味するようです。
アダムスが熾天使である根拠
アダムスのモチーフが熾天使であることの根拠は、以下のとおりです。
カルヴァリーベースの地上絵
セカンドインパクトは、アダムスによって起こされました。
シンエヴァのフォース(アナザー)インパクトの際、旧南極セカンドインパクト爆心地のカルヴァリーベースが現れましたが、そこには3対6枚の翼の地上絵が描かれていました。
3対6枚の翼は熾天使の象徴ですので、あの地上絵は熾天使を描いたものであると思われます。
上記画像 熾天使 – Wikipedia
NHGネルフ戦艦はネハシム・セラフィム
シンエヴァで、真希波マリは、NHGネルフ戦艦3隻を沈めた際、「もうリリンが君らを使うこともない。ゆっくり眠りなアダムス達」と言いました。
この点に関し、AAAヴンダーを含むNHGネルフ戦艦は、アダムスから建造されたと考察しています。
NHGネルフ戦艦は、全て羽根の生えた蛇のような見た目をしていましたが、これらは「民数記」に出てくるネハシム・セラフィム(空を飛ぶ燃える蛇達)がモチーフになっている思われます。
アダムスから造られたNHGネルフ戦艦もセラフィム(熾天使)をモチーフにしていると思われることが、アダムスが熾天使をモチーフにしていることの根拠の1つになります。
第2使徒リリスとは
次に、アダムスの対となる存在である第2使徒リリスについて考察します。
新劇場版において、リリスは、ネルフ本部地下のセントラルドグマ(黒き月の中心)で磔(はりつけ)にされ、胸にロンギヌスの槍を刺され封印されていました。
地球の生命の祖:地球の神
新世紀版(テレビアニメ版、旧劇場版)において、リリスは、第18使徒リリン(人類)を産み出した存在でした。
旧劇場版の、ゼーレからネルフ本部が攻撃を受け葛城ミサトが碇シンジを避難させるシーンにおいて、ミサトは、「シンジ君。私たち人間もね、アダムと同じリリスと呼ばれる生命体の源から生まれた18番目の使徒なのよ。他の使徒達は別の可能性だったの。人の形を捨てた人類の。ただ、お互いを拒絶するしかなかった悲しい存在だったけどね。同じ人間同士も」と言っていました。
他方、新劇場版:序では、ミサトは、ダイヤモンドのような第6使徒戦において、「この星の生命の始まりでもあり終息の要ともなる第2の使徒リリスよ。サードインパクトのトリガーとも言われているわ」と言っていました。
つまり、リリスは、旧劇場版ではリリン(人類)の始祖とされていましたが、新劇場版ではリリンだけでなく、地球の全ての生命の祖であり、地球の生命の始まりと終わりを司る者という設定に変更されたと思われます。
そうすると、新劇場版におけるリリスは、「地球の神」と言ってもよいかもしれません。
なお、新劇場版では、「神」という言葉が様々な意味で使われており、アダムスもリリスも共に「神」と呼ばれています。
リリスのモチーフ
リリス(Lilith)は、古代バビロニアのリリートゥが語源とされ、男児を害する女性の悪霊のことを言うようですが、エヴァンゲリオンシリーズでは、様々なモチーフが織り交ぜられています。
アダムの最初の妻、対等の存在
リリスは、8世紀から11世紀頃に書かれた著者不明の「ベン・シラのアルファベット」において、アダムの最初の妻とされているようです。
旧約聖書によれば、イブ(エヴァ)がアダムの肋骨から造られた存在であるのに対し、「ベン・シラのアルファベット」では、リリスはアダムと対等の立場を求めた女性として描かれているようです。
新世紀版(テレビアニメ版、旧劇場版)では、第1使徒アダムに対する第2使徒として、リリスとの名称が採用されたと思われます。
新劇場版においては、アダムスと別にアダムは存在しないと考察していますが、アダムスの対となる存在として、リリスの名称は引き継がれています。
堕天使ルシファー(ルシフェル)
リリスは、魔王サタン(又はサマエル)の妻となって交わり、無数の悪魔(リリン)を産み出した者として描かれることもあるようです。
サタンは、最も美しく最強の天使でありながら神に反逆して地上に堕とされた12枚の翼をもつ堕天使ルシファー(ルシフェル)と同一視されることがあります。
エヴァンゲリオンシリーズにおけるリリスは、12枚の翼と関連付けられています。
旧劇場版ラストに現れたリリスは、12枚の翼を有していました。
シンエヴァの、フォース(アナザー)インパクトの際には、AAAヴンダーを含む4隻のNHGネルフ戦艦から、それぞれ3枚(計12枚)の光の翼が出現したことについて、冬月コウゾウは、「人工的なリリスの再現」と言っていました。
また、シンエヴァの、AAAヴンダー甲板上で碇ゲンドウが話すシーンにおいて、死海文書外典が描写されましたが、その最後にはリリスと思われる存在が映っていました。その存在も、やはり12枚の翼を持っていました。
つまり、エヴァンゲリオンシリーズにおけるリリスは、サタン(ルシファー)と交わった者というよりも、ルシファーそのものがモチーフになっていると思われます。
バーニーの浮彫、メソポタミア神話のイシュタルなど
シンエヴァの、AAAヴンダー甲板上でゲンドウが話すシーンにおいて、死海文書外典が描写されましたが、その最後の方では、リリスが、バーニーの浮彫とよく似たものとして描かれていました。
バーニーの浮彫は、メソポタミア神話における冥界下りのイナンナ、イシュタル(語源はルシファーと同じく明けの明星、金星)又は冥界の女王エレシュキガルを描いたものと言われているようです。
上記画像 バーニーの浮彫 – Wikipedia
リリスのモチーフまとめ
以上をまとめると、新劇場版のリリスは、アダムスと対になる対等の存在であり、天から地球(冥界)に降り(堕ち)、リリンを含む生命の始祖、地球の神となった堕天使ルシファーといったイメージで設定されたのではないかと考えられます。
地上に堕ちたのはリリスのみ
上記のとおり、リリスは、地上に堕ちた堕天使ルシファーがモチーフになっていると思われますが、その名のとおり、地上(地球)に堕ちたのはリリスのみで、アダムスは本来地球に来る予定はなかったと考察しています。
リリスが地上に堕ちたタイミングは、ファーストインパクトです。
リリスも元は熾天使:アダムスとの共通点
上記のとおり、リリスは、最も美しく最強の天使でありながら神に反逆して地上に堕とされた12枚の翼をもつ堕天使ルシファー(ルシフェル)をモチーフにしていると考えます。
ところで、ルシファーは、地上に堕とされる前は、もともと熾天使の1人だったとする説があります。
ここから、冒頭の図のとおり、アダムスとリリスは、共に熾天使だったと考えています。
その根拠として、アダムスとリリスには、次のとおり共通点を見出すことができます。
アダムスとリリスは同列的存在
シンエヴァのゴルゴダオブジェクトにおいて、ゲンドウは、シンジに対し、次のように説明しました。
ゲンドウ「ゴルゴダオブジェクトだ。人ではない何者かがアダムスと6本の槍とともに神の世界をここに残した。私の妻、お前の母もここにいた」
シン・エヴァンゲリオン劇場版
前提として、私は、ゲンドウの妻でありシンジの母でもある碇ユイは、リリスと同質の存在であると考えています。
そうすると、アダムスとユイ(リリス)は、共にゴルゴダオブジェクトにいた者として同等に表現されていますので、それぞれが同列的存在であると推察されます。
共に生命の実と知恵の実を所持
新世紀版(テレビアニメ版、旧劇場版)では、「生命の実のアダム」と「知恵の実のリリス」という対立構造でしたが、新劇場版では、アダムスとリリスは共に生命の実と知恵の実の両方を持った存在になっていると考察しています。
アダムスとリリスが共に2つの実を持った存在であることの考察はこちら
共にインパクトのトリガーになれる
インパクト(儀式)を起こすには、トリガーと贄(にえ)が必要です。
アダムスとリリスは、次のとおり、各インパクトにおいてトリガーになっている点で共通しています。なお、前提として、初号機はリリスのコピー(クローン)を素体にしていると考察しています。
- セカンドインパクト:4体のアダムス
- ニアサードインパクト:擬似シン化初号機
- サードインパクト:リリス+マーク6 サードインパクトの考察はこちら
- (ニア)フォースインパクト:擬似シン化第13号機
- フォース(アナザー)インパクト:擬似シン化第13号機
アダムスとリリスの相違点
上記のとおり、アダムスとリリスには共通点を見出すことができますが、相違点もあります。
インパクトにおける関わり方
光の翼の枚数(出力)
セカンドインパクトは、アダムス4体が光の翼を発して起こされました。また、フォース(アナザー)インパクトでは、AAAヴンダーを含む4隻のNHGネルフ戦艦が光の翼を発していました。
一方、ニアサードインパクトは、アダムスは関係しておらず、初号機単体で多数の光の翼を発して起こしました。
上記のとおり、私は、初号機はリリスのコピー(クローン)であると考えていますが、擬似シン化した初号機は、オリジナルのリリスと同等のエネルギーを持つ存在になったと思われます。
つまり、インパクト(儀式)を起こすのに、アダムスは4体必要であるのに対し、リリス(=擬似シン化した初号機)であれば単体で足りることになり、アダムスとリリスとではその出力が違うと言えます。
アダムスとリリス(=擬似シン化した初号機)は、インパクトの発生に必要な光の翼を発する点で共通しますが、その枚数(出力)が異なり、リリス1体で少なくともアダムス4体分のエネルギーを持っていると考えられます。
このことは、シンエヴァで、8号機が、ゴルゴダオブジェクトへ行くためにオーバーラッピング機能によってアダムスの器4体を吸収し、8+9+10+11+12号機になる必要があったこととも関連していると思われます。
リリス(=初号機)が単体でインパクトを起こせる理由
アダムスがインパクトを起こす際には4体関与するのに対し、なぜリリスは単体でインパクトを起こせるのでしょうか。
繰り返しになりますが、アダムスとリリスは共に同じ熾天使ですが、リリスは、最も美しく最強の天使でありながら神に反抗して地上に堕とされた12枚の翼を持つ堕天使ルシファーがモチーフになっていると考えらます(ルシファー以外の熾天使の翼は6枚)。
リリスがルシファーなのだとすれば、他の熾天使とは別格のエネルギーを持っていることも納得できます。
ルシファー以外の熾天使は、同じ最上位の天使ではあるものの、ルシファーには力で劣ると言えます。ルシファーは特別なのです。
第13号機(アダムスの生き残り)も単体でインパクトを起こせる
上記のとおり、アダムスがインパクトを起こす際には4体が関与します。
しかし、これには例外があります。「アダムスの生き残り」である第13号機も、初号機同様、単体でフォースインパクトを発生させることができていました。
この理由は、第13号機が、熾天使の中でも、ルシファーの双子の兄弟とされるミカエルをモチーフにしており、リリスと同等のエネルギーを持っているからであると考察しています。
ここまでを整理すると、冒頭でも示した次の図のようになります。
ATフィールドの有無
エヴァには、オリジナルを素体にした機体と、コピー(クローン)を素体にした機体があります。
アダムスのオリジナルを素体にした機体(マーク9、第13号機等)には、ATフィールドが存在しません。
他方、リリスのコピーである初号機は、ATフィールドを展開することができます。
この点については、シンエヴァにおけるゲンドウのセリフが参考になります。
ヴンダー甲板上で赤木リツコに銃で撃たれたゲンドウ(ATフィールド不発生)「神に障壁はない。来るものを全て受け入れるだけだ」
ゲンドウの補完シーンでシンジと対話するゲンドウ(シンジが近づくとATフィールドが発生)「ATフィールド?人を捨てたこの私に?まさか、シンジを恐れているのか?この私が」
シン・エヴァンゲリオン劇場版
本来、熾天使として「神」と呼ばれるアダムスとリリスは、共に心の壁であるATフィールドを持たない存在だったと思われます。
しかし、地上に堕とされたリリス(ルシファー)は、他の「神」を恐れ拒絶し、ATフィールドを発生させるようになったのではないでしょうか。
「だが主機はこっちの方が上だ」の意味
シンエヴァの、ヴンダーが2番艦NHGエアレーズングと交戦するシーンにおいて、高雄コウジが「だが主機はこっちの方が上だ」と言っていました。
これを今回の考察結果から説明すると、同じ熾天使でもルシファー(リリス・初号機)は格が違うため、主機の出力も違って当然ということになります。
ウルトラマン兄弟のオマージュ
なお、アダムスはウルトラ兄弟のオマージュだと言われています。
破の、加持リョウジのセカンドインパクト回想シーンに出てくる4体の光の巨人(アダムス)は、カラータイマーの位置などから、左からゾフィー、マン、ジャック、セブンを表しているようです。
また、シンエヴァの、AAAヴンダーがヤマト作戦のため旧南極セカンドインパクト爆心地に突入するシーンでは、4つの立った十字架と1つの斜めに傾いた十字架があり、傾いた十字架にはウルトラマンエースのマークが見えました。
ウルトラマンA(エース)では、マイナス宇宙にあるゴルゴダ星において、ヤプールによってマン、ゾフィー、セブン、ジャックの4人が磔(はりつけ)にされたシーンがありますが、アダムスとセカンドインパクトの爆心地は、そのオマージュであると言われています。