今回は、シン・エヴァンゲリオン劇場版における、エヴァンゲリオンイマジナリーとゴルゴダオブジェクトについて考察します。
エヴァンゲリオンイマジナリーは、最後の儀式アディショナルインパクトの際に登場し、マイナス宇宙(裏宇宙)にあるゴルゴダオブジェクトに存在していました。
マイナス宇宙(裏宇宙)とは
エヴァンゲリオンイマジナリーは、マイナス宇宙にあるゴルゴダオブジェクトに存在していました。まず、マイナス宇宙とは何なのでしょうか。
旧南極セカンドインパクト爆心地、カルヴァリーベースの中心にある「地獄の門」の先がマイナス宇宙になっていました。
フォース(アナザー)インパクト後、第9使徒化した式波アスカのエントリープラグをかみ砕いて擬似シン化した第13号機が、「地獄の門」の中に入っていきました。
これを見た赤木リツコは、「ガフの扉の向こうは、ヴンダーには手出しできないマイナス宇宙。残念ながら、ヴィレには補完計画を止める術はない。万事休すね」と言っていました。
リツコのセリフは、「地獄の門」を「ガフの扉」と同一視していますので、両者は同一と考えてよいと思います。
つまり、マイナス宇宙は、ガフの扉の先にある別の宇宙と言うことができます。
マイナス宇宙について、碇ゲンドウが、シンジに対し、「お前の記憶の世界だ」「マイナス宇宙を我々の感覚機能では認知できない。ゆえにLCLが知覚可能な仮想の世界を形成している」と説明していました。
人類にマイナス宇宙は覚知できないため、劇中におけるマイナス宇宙内の描写は、LCLによってシンジの記憶から映し出された仮想の世界だったようです。
マイナス宇宙内の移動
なお、マイナス宇宙では、覚醒した第13号機と初号機、オーバーラッピングによってマーク9を取り込んだ8+9号機が進むことができていました。
しかし、8+9号機に搭乗していた真希波マリは、わざわざ一旦引き返し、8+9+10+11+12号機にしていました。
これは、8+9号機のままでは、マイナス宇宙を進むことはできても、その先にあるゴルゴダオブジェクトまでは到達できなかったということです。この点については、別途考察してます。
エヴァンゲリオンイマジナリーとは
シンジの覚醒によって擬似シン化し、切断されていた四肢が再生した初号機と、第13号機は、マイナス宇宙の先にあるゴルゴダオブジェクトに到達しました。
ゴルゴダオブジェクトには、エヴァンゲリオンイマジナリーがいました。
現世には存在しない想像上の架空のエヴァ
イマジナリー(Imaginary)とは、「架空の」「想像上の」という意味です。
エヴァイマジナリーは、人間には認知できないマイナス宇宙にいるため、見る者の記憶によって見え方が異なるところ、シンジには黒いリリスに見えていました。
ゲンドウ「初号機パイロット。お前に見せたいものがある」
シンジ「これは…黒いリリス?」
ゲンドウ「お前の記憶ではそう映るのか。エヴァンゲリオンイマジナリー。葛城博士が予測した現世には存在しない想像上の架空のエヴァだ。虚構と現実を等しく信じる生き物、人類だけが認知できる」
シン・エヴァンゲリオン劇場版
「現世には存在しない想像上の架空のエヴァ」とは、どのような意味なのでしょうか。
「現世」とは、ゲンドウとシンジから見た現実の世界、つまりエヴァ世界(アニメの中)を指しているものと思われます。
そうすると、エヴァンゲリオンイマジナリーは、エヴァ世界(アニメの中)の中には存在しない、外側の世界にいる存在であると考えます。
正体はアニメ制作者(創造者)
エヴァンゲリオンイマジナリーの正体は、エヴァ世界を創造した存在、つまりアニメ制作者であると考えます。
制作者は、アニメによって、「虚構」(フィクション)と「現実」を同一化できます。
ゲンドウは、エヴァンゲリオンイマジナリーに2本の槍を刺してアディショナルインパクトを起こす際、次のように説明しました。
ゲンドウ「絶望と希望の槍が互いにトリガーと贄となり、虚構と現実が溶け合い、全てが同一の情報と化す。これで自分の認識、すなわち世界を書き換えるアディショナルインパクトが始まる。私の願いが叶う唯一の方法だ」
シン・エヴァンゲリオン劇場版
「自分の認識」の書き換えと「世界」(エヴァ世界)の書き換えが同義であるとしており、エヴァンゲリオンイマジナリーは、まさにエヴァ世界の制作者といえると思います。
エヴァ世界(アニメの中)のキャラクター達にとってはエヴァ世界が「現実」ですので、制作者にアクセスすることで、制作者が創造する「虚構」(フィクション)をエヴァ世界で「現実」化できるというのが、アディショナルインパクトの本質だったと考えます。
ゲンドウは、アディショナルインパクトによって制作者にアクセスすることで、自らが望む世界への書き換えをしようとしたのだと思われます。
リアルなリリス(綾波顔)の姿
アディショナルインパクトが始まると、エヴァンゲリオンイマジナリーは、地獄の門(ガフの扉)を通じて、マイナス宇宙から現実世界に姿を現しました。
この時点ではもはやマイナス宇宙ではないので、エヴァ世界(アニメの中)の人類が直接認知できる姿で現れたことになります。
北上ミドリ「これがアディショナルインパクト?」
リツコ「ええ、おそらくあれがエヴァイマジナリー。まさか実在するとはね」
シン・エヴァンゲリオン劇場版
その姿は、アニメ感のないリアルな質感のものでした。エヴァ世界(アニメの中)の外側にいる実世界の制作者であることから、リアルなタッチで描かれたのだと思われます。
アヤナミ顔で、12枚の翼を有するなど、旧劇場版ラストに登場したリリスの姿が再現(セルフオマージュ)されていたと思われます(挙動も似ていた。)。
最上位の「神」
エヴァ世界では、リリスやアダムスなど「神」と呼ばれる存在が複数いますが、制作者は、エヴァ世界(アニメ)の創造者ですので、「神」の中でも最上位の「神」に位置付けられると思います。
ゴルゴダオブジェクトとは
エヴァンゲリオンイマジナリーのいたゴルゴダオブジェクトとは、何だったのでしょうか。
制作スタジオ(特撮セット)
ゴルゴダオブジェクトに到達したシンジとゲンドウは、初号機と第13号機によって対決しました。
対決した場所は、吹き飛ばされた初号機によって建物が壊れるのでなくずれたり、背景の壁紙がずり落ちるなど、まるで特撮セットのような場所でした。
ここから、ゴルゴダオブジェクトは、制作者の制作スタジオであると思われます。
上記のとおり、エヴァンゲリオンイマジナリーはエヴァ世界(アニメ)の制作者であると考えますので、エヴァンゲリオンイマジナリーのいたゴルゴダオブジェクトが制作スタジオであるというのも合点がいきます。
碇ゲンドウの説明
ゴルゴダオブジェクトについて、ゲンドウは、次のように説明していました。
ゲンドウ「ゴルゴダオブジェクトだ。人ではない何者かがアダムスと6本の槍とともに神の世界をここに残した。私の妻、お前の母もここにいた。全ての始まり、約束の地、人の力ではどうにもならない運命を変えることができる唯一の場所だ」
シン・エヴァンゲリオン劇場版
アダムスと6本の槍、ユイがいた
ゲンドウの上記説明によれば、ゴルゴダオブジェクトは、「全ての始まり」の場所であり、そこには「アダムスと6本の槍」があったようです。
また、「アダムスと6本の槍」と同列的に「私の妻、お前の母もここにいた」とも言っています。
制作者が、エヴァ世界の始まりの場所である制作スタジオに、新劇場版の物語の中核として、アダムス、聖なる槍(ロンギヌス・カシウス)6本、ユイを配置したという意味になるかと思います。
この点に関連し、ユイはリリスと同質の存在であり、アダムスとリリスがともに熾天使(してんし・セラフィム)をモチーフにしていると考察しています。
運命を変えることのできる神の世界
ゲンドウの上記説明によれば、ゴルゴダオブジェクトは、「運命を変えることができる唯一の場所」とのことです。
エヴァ世界(アニメの中)を書き換えられる場所は、制作者のいる制作スタジオしかないという意味だと考えられます。
上記のとおり、アディショナルインパクトの本質は、制作者にアクセスすることで「虚構」(フィクション)と「現実」を同一化することだと考えます。
シンジ「父さん。父さんはここで何がしたいの?」
ゲンドウ「このゴルゴダオブジェクトでしか起こしえないアディショナルインパクトだ。それが私の神殺しへの道へとつながる。そのために最後の2本の槍をここに届けた」
シン・エヴァンゲリオン劇場版
ゲンドウが知っていた理由
ところで、そもそも、なぜゲンドウは、ゴルゴダオブジェクトについて知っていたのでしょうか。
これは、ネブカドネザルの鍵によって、世界の創造者である「制作者」の情報(ループしていることなどエヴァ世界の設定情報)を身体に書き加えたためだと思われます。
そのため、シンジに対し、「お前が選ばなかったATフィールドの存在しない、全てが等しく単一な人類の魂だけの世界」と言ったように、新劇場版のゲンドウが本来知り得るはずのない旧劇場版の結末に関する情報も知っていました。
元ネタ、オマージュ
ゴルゴダオブジェクトは、十字架を組み合わせたような構造物でした。
「ゴルゴダ」の名称は、イエス・キリストが磔(はりつけ)にされた「ゴルゴダの丘」に由来していると思われます。
元ネタは、星野之宣さんの漫画「クォ・ヴァディス」に登場する、神が入った建造物「グランドクロス」であると言われています。
また、ウルトラマンA(エース)において、ヤプールによってウルトラ兄弟が磔にされた場所が、マイナス宇宙にあるゴルゴダ星でしたので、そのオマージュにもなっていると思われます。