今回は、エヴァンゲリオン新劇場版における、碇(旧姓:綾波)ユイの目的について考察します。
碇(綾波)ユイの目的:NEON GENESIS の達成
NEON GENESIS とは
「NEON GENESIS」は、テレビアニメ版のタイトルでも使用されていた言葉です。「新世紀エヴァンゲリオン」「NEON GENESIS EVANGELION」と表記されていました。
つまり、当初「NEON GENESIS」は、「新世紀」という意味で用いられていたと思われます。
ギリシャ語のようですが、文法的には少しおかしいようです。しかし、新劇場版において、その意味が再構成されました。
シンエヴァにおける次の会話で、「NEON GENESIS」の意味が説明されました。
碇シンジ「僕もエヴァに乗らない生き方を選ぶよ。時間も世界も戻さない。ただ、エヴァがなくてもいい世界に書き換えるだけだ。新しい、人が生きていける世界に」
シン・エヴァンゲリオン劇場版 綾波レイの補完シーン
綾波レイ「世界の新たな創生。ネオンジェネシス」
つまり、「NEON GENESIS」とは、それまでループしてきたエヴァンゲリオンの物語を終わらせ、エヴァがなくても人が生きていける「世界の新たな創生」を意味することが分かります。
NEON GENESIS の達成
レイの補完を終えたシンジが、「やってみるよ、綾波。ネオンジェネシス」と言ってガイウス(ヴィレ)の槍を握りしめると、シンジの目が紫色に光り、シンジと初号機にガイウスの槍の矛先が向き、ネオンジェネシスが始まりました。
ここで、ユイがシンジの背後から現れ、シンジを追い出し、ユイがガイウスの槍に刺される身代わりとなりました。
これについて、シンジは、「そうか。このときのためにずっと僕の中にいたんだね。母さん」と言いました。
「このときのため」とは、「ネオンジェネシスのときのため」という意味になります。
つまり、ユイの最終的な目的は、シンジにネオンジェネシスを起こさせつつ、自分がシンジの身代わりとなって犠牲になることだったと言えます。
神の定めでなく人の意志であること
碇ゲンドウが起こしたアディショナルインパクトは、「神」が与えたカシウスの槍とロンギヌスの槍によって起こされました。
これに対し、ネオンジェネシスは、「神」ではなく人の意志によって作りだしたガイウス(ヴィレ)の槍によって起こされました。
つまり、ユイは、神の定めた運命の中で起こされる物語のリセット、ループではなく、人の意志による新たな世界の創生を願っていたということができ、これがネオンジェネシスの本質だといえます。
以上のことは、シンエヴァにおける、次の会話から読み取ることができます。
ゲンドウ「バカな。聖なる槍は全て失っている。世界を書き換える新たな槍はあり得ないはずだ」
マリ「神が与えた希望の槍カシウスと絶望の槍ロンギヌス。それを失っても、世界をありのままに戻したいという意志の力で作り上げた槍ガイウス。 いえヴィレの槍。知恵と意志を持つ人類は神の手助けなしにここまで来てるよ。 ユイさん」
シン・エヴァンゲリオン劇場版 エヴァンゲリオンイマジナリーにAAAヴンダーが突進するシーン
ヴィレ(WILLE)の槍
「ヴィレの槍」は、加持リョウジが結成した反ネルフ組織である「WILLEが作った槍」を意味すると考えるのが自然ですが、WILLEはドイツ語で「意志」を意味しますので、「人の意志が作った槍」と捉えた方がしっくりきます。
「神が与えた槍」「神の手助けなしに」の意味
上記のとおり、マリは、「神が与えた希望の槍カシウスと絶望の槍ロンギヌス」「知恵と意志を持つ人類は神の手助けなしにここまで来てるよ。ユイさん」と言っています。
エヴァンゲリオンシリーズでは「神」という用語が多義的に用いられているところ、ユイも「神」であると考察していますが、上記マリのセリフにおける「神」は、ユイよりさらに上位の「神」である「制作者」を意味しているものと思われます。
神であるユイ自身が消えること:ゲンドウの神殺し
上記のとおり、ユイが望んだネオンジェネシスとは、神の定めた運命の中で起こされる物語のリセット、ループではなく、人の意志による新たな世界の創生であると考えられます。
そうすると、ネオンジェネシス後の新たな世界に「神」は不要ということになります。
ユイは、ネオンジェネシスを起こすための贄(にえ)に自らがなることで、神のいない、新たな世界の創生を実現したのではないでしょうか。
ユイとゲンドウが、初号機と第13号機とともに、ガイウスの槍で心中した際、シンジは、「やっと分かった。父さんは、母さんを見送りたかったんだね。それが父さんの願った神殺し」と言いました。
エヴァにおける「神殺し」とは、神の理(ことわり)に従わないことを意味するものと考えていますが、ゲンドウは、ループするエヴァ世界において、永遠に大役を続けていたユイを殺してあげることで「神殺し」を達成しようとしていたと考えます。
シンジは生かすこと
ユイは、自らは消える一方、シンジのことは生かし、ネオンジェネシス後の新たな世界を生きるようにしました。
初めからネオンジェネシスを計画していた
上記のとおり、ネオンジェネシスの際、シンジは、「そうか。このときのためにずっと僕の中にいたんだね。母さん」と言いました。
つまり、ユイは、いずれネオンジェネシスが起きることを初めから予期しており、ネオンジェネシスの際にはシンジの身代わりになるよう事前に備えていたことが分かります。
「ずっと僕の中にいた」とは、破ラストのニアサードインパクトにおいて、シンジが初号機と同化した際に、初号機のコアの中にいた(ダイレクトエントリーしていた)ユイがシンジと同化したことを表したものと考えらえます。
初号機コアへのダイレクトエントリー
Qの、冬月コウゾウとシンジが将棋をするシーンにおいて、冬月は、シンジに対し、「エヴァの極初期型制御システムだ。ここでユイ君が発案したコアへのダイレクトエントリーを自らが被験者となり試みた」と言っていました。
つまり、初号機コアへのダイレクトエントリーを発案したのも、自らが被験者になったのも、ユイの意思だったことが分かります。
ユイが初号機にダイレクトエントリーしたのは、シンジが覚醒し初号機と同化する際に、自らもシンジと同化することで、来るべきネオンジェネシスにおいて、シンジの身代わりとなって自らが消滅するシナリオの一部だったと考えることができます。
真希波マリへの遺言
マリは、破の冒頭で仮設5号機によって第3使徒を殲滅した際、「自分の目的に大人を巻き込むのは気後れするなあ」と言い、ゼーレやネルフとは異なる、独自の目的を持っているようでした。
また、シンエヴァ冒頭パリでのユーロネルフ第1号封印柱復元オペの後、マリは、シンジについて、「どこにいても必ず迎えに行くから。待ってなよワンコ君」と言っていました。
この時はまだシンジを「ワンコ君」扱いしていたことから、マリの当該セリフは、「好意を持つ人を自分の意思で迎えに行く」というよりは、「誰かに頼まれたため迎えに行く」という意味合いだったように感じられます。
そして、マリは、シンジがマイナス宇宙に行くであろうことまで見据えて、8号機をオーバーラッピング対応型に改造しておきました。
マリが8号機をオーバーラッピング対応型に改造したことの考察はこちら
マリは、何かとシンジに世話を焼き、最後は危険を冒してまで自らの言葉どおりにマイナス宇宙にまでシンジを迎えに行きました。
マリの動機、行動原理は、尊敬するユイの遺言にあったと思われます。
ユイは、初号機にダイレクトエントリーする前に、マリに対し、「シンジを助けて欲しい」と頼んでいたのではないでしょうか。
冬月コウゾウへの遺言
シンエヴァの2番艦NHGエアーレーズング内において、冬月は、マリに対し、「君の欲しいものは集めてある。後はよしなにしたまえ。イスカリオテのマリア君」と言い、マーク10、11、12の3機を集合させました。
また、マリが去った後、ユイの写真を見て「ユイ君。これでいいんだな」と言い、LCL化(ATフィールドを失い液状化)しました。
その後、マリは、「アダムスの器たるエヴァオップファータイプが勢ぞろい。さすが冬月先生。手際がいいにゃ。悪いけどオーバーラッピングのための糧になってもらうわ」と言って、8+9号機で3機を次々に捕食しました。
そして、マリは、オーバーラッピング機能によって、8+9+10+11+12号機にして、シンジのいるゴルゴダオブジェクトへ向かいました。
以上から分かることは、冬月は、マリがシンジを迎えにいくことの手助けをしたといえます。そして、それがユイの遺言だったことだったことが伺われます。
ユイは、マリの他、冬月に対しても、「シンジを助けて欲しい」と頼んでいたと考えることができます。