今回は、エヴァンゲリオン新劇場版における、「白レイ」(白波)こと綾波レイについて考察します。
「白レイ」は、黒いプラグスーツを着たアヤナミレイ仮称(黒レイ、黒波)との対比で、白いプラグスーツを着ていたことからそう呼ばれています。
碇ユイのクローンである点で共通しますが、白レイは、黒レイとは全く別の存在です。
第1の少女 エヴァ零号機専属パイロット
序で赤木リツコは、白レイについて、「綾波レイ14歳。マルドゥックの報告書によって選ばれた最初の適格者。第1の少女。すなわちエヴァンゲリオン試作零号機専属操縦者。過去の経緯は白紙。全て抹消済み」と説明していました。
ここでいう「マルドゥック」とは、エヴァパイロットを選出する「マルドゥック機関」のことを指しているものと思われます。
また、式波アスカが2号機の「担当パイロット」と呼ばれていたことに対し、白レイは零号機の「専属操縦者」と言われていたことから、零号機には白レイしか搭乗できないものと思われます。
初登場時に負傷していた理由
白レイは、序の、第4使徒戦で碇シンジが初号機に初めて搭乗したシーンにおいて、大怪我をして担架で運ばれていました。
白レイの負傷は、シンジが来る前に行われた零号機起動実験の際、零号機が暴走したことに起因しています(序で描写)。
読んでいた本はドイツの医学書
白レイは、読書が好きでした。この点は、黒レイと異なります。
序の画コンテ1093によると、白レイの部屋にあった本は、ドイツの医学書(精神、遺伝子等)だったようです。
リリスの魂は入っていない
新世紀版(テレビアニメ版、旧劇場版)の綾波レイは、アダムとユイから構成した肉体に、リリスの魂が入れられた存在でした。
これに対し、新劇場版の綾波レイは、リリスの魂の器としての存在ではなくなっていると思われます。新世紀版では、レイが死亡する度に新たなレイが登場しているのに対し、新劇場版では同時に複数の綾波シリーズが登場していたからです(アドヴァンスト綾波シリーズなど)。
リリスの魂が分割可能であるとの設定もなさそうなので(少なくとも劇中事実からは伺えない。)、レイにリリスの魂が宿っているとの設定は変更されたものと思われます。
碇(綾波)ユイの複製体(クローン)
白レイは、シンジの母親であるユイのクローン(コピー)体の1つでした。
Qの、冬月コウゾウとシンジが将棋を打つシーンにおいて、冬月は、「君の知っている綾波レイはユイ君の複製体の1つだ。その娘も君の母親同様、初号機の中に保存されている。全ては碇の計画だよ」と言っていました。
「調整」が必要
ユイのクローンは「綾波タイプ」又は「綾波シリーズ」と呼ばれ、ネルフにおいてプラントに浸かったり、投薬を受ける「調整」が必要でした。
同じ綾波タイプである黒レイ(ナンバー6)は、シンエヴァで、第3村に行ってから「調整」を受けることができなくなったために、LCL化(ATフィールドを失い液状化)してしまいました。
冬月「第三の少年がヴィレに戻った。綾波タイプナンバー6は無調整ゆえ個体を保てなかったようだ」
シン・エヴァンゲリオン劇場版
「調整」の元ネタは、漫画版「風の谷のナウシカ」でドルク皇弟のしていた「沐浴」(もくよく)だと思われます。
なお、同じクローンである式波アスカと真希波マリは、「調整」が不要である点において「綾波タイプ」と異なっています。
綾波タイプ初期ロットナンバー5
黒レイが「綾波タイプ初期ロットナンバー6」であったことから、黒レイが登場する前から存在していた白レイは、「ナンバー5」であったと思われます。
セカンドインパクトでエヴァの呪縛に
セカンドインパクトは5体のアダムスが投入されて起こされましたが、このときのパイロットの1人として白レイが搭乗していたと考えています。
また、セカンドインパクトを起こした際、アダムスの内の1体(後の第13号機の素体「アダムスの生き残り」)に搭乗していた白レイは、このとき覚醒し、エヴァの呪縛にかかったと思われます。
エヴァの呪縛にかかると、食事が不要になり、水を飲むだけで生きていける体になりますが(シンエヴァにおけるアスカ)、白レイも、劇中を通して、食べ物を口にしたのはシンジが作った味噌汁1口のみでした(破の日本海洋生態系保存研究機構)。
破の、白レイがゲンドウと食事をするシーンにおいても、よく見ると薬しか食べていませんでした。
磔リリスの胸に槍を刺した
セカンドインパクト後、セントラルドグマで磔(はりつけ)になっていたリリスの胸に、ロンギヌスの槍を刺したのは、白レイであると考察しています。
ゲンドウにとって特別な存在である理由
同じユイのクローンでありながら、黒レイと異なり、白レイは、ゲンドウから愛情を受け、一緒に食事をするなど、特別視されていました。
Qの、冬月がシンジと将棋を打つシーンの画コンテ863では、冬月が「君を運んできた複製体はマーク9の暫定パイロットとして用意されたアヤナミ型試作体第6号だ。ユイ君の情報は転送されていない。ゆえに碇も興味ないようだ。あの複製体はゼーレのプログラムで動いている。我々の関知しないところだ」と言うことになっていました。
ゲンドウは、黒レイ(アヤナミ型試作体第6号)にはユイの情報が転送されていないために興味がないとのことですが、逆に言えば、白レイにはユイの情報が転送されていたため興味を持っていたと考えることができます。
ユイと見た目が似ているだけの黒レイと異なり、ユイの情報が転送された白レイは、ユイにより近い存在として、ゲンドウから特別視されていたのだと思われます。
幻影のレイ 精霊
序の冒頭シーンと、シンエヴァのネルフ第2支部N109棟跡において、シンジの前に一瞬鳩とともに幻影のようなレイが現れました。
あれらは、明らかに「綾波レイ」とは別の存在です。2回とも、そこに白レイは存在し得ない状況だったからです。
幻影のレイの正体は、神には3つの位格があるとする「三位一体」の教えの内の「精霊」であると考察しています。
初号機のコアに取り込まれる
白レイは、破のラストにおいて、「最強の拒絶タイプ」第10使徒によって、搭乗していた零号機ごと捕食、吸収されました。
同シーンの画コンテ1628によると、白レイを取り込んだ第10使徒は「レイと同じ声」でうなり声をあげるとされていました。
吸収された白レイは、第10使徒のコアの中に取り込まれてしまいました。
その後、白レイを救出するため、シンジは覚醒し、それに呼応した初号機が擬似シン化して、第10使徒のコアから白レイを取り出しました。
なお、覚醒したシンジと初号機が第11使徒であると考察しています。
初号機によって白レイは救出されましたが、シンジと白レイは、そのまま初号機のコアに取り込まれてしまいました。
このことは、破のQ予告で「レイとシンジを取り込んだまま凍結されるエヴァ初号機」とナレーションされたことから分かります。
そして、Q冒頭「US作戦」後、初号機のコアからシンジは取り出されましたが、白レイはコアの中に取り残されたままとなりました。
この点について、Qで冬月とシンジが将棋を打つシーンにおいては、冬月が「君の知っている綾波レイはユイ君の複製体の1つだ。その娘も君の母親同様、初号機の中に保存されている」と言っていました。
白レイの存在意義・目的
白レイは、どのような目的で作られたのでしょうか。
ぽか波 シンジに好意を持つようプログラム
白レイ、黒レイを含む綾波シリーズは、シンジに好意を持つようにプログラムされていました。
このことは、シンエヴァの第3村におけるアスカが、次のように説明しました。
「私達エヴァパイロットはエヴァ同様人の枠を超えないよう設計時に抑制されてる。非効率な感情があるのもそう。人の認知行動に合わせてデザインされているだけ。あんた達綾波シリーズは第3の少年に好意を持つように調整されてる。今の感情は最初からネルフに仕組まれたものよ」
シン・エヴァンゲリオン劇場版
プログラムのとおり、白レイはシンジに好意を持ち、破のエレベーターにおいて、アスカに対し、「わからない。ただ、碇君と一緒にいるとポカポカする。私も、碇君にポカポカして欲しい。碇司令と仲良くなって、ポカポカして欲しいと思う」と言っていました。このセリフから、白レイは「ポカ波」とも呼ばれています。
14年前からのシナリオとは
序の、ツチノコのような第5の使徒戦後シンジが家出をして逃げ出した際、ゲンドウと冬月は、次のような会話をしていました。
冬月「結局、お前の息子は予定どおりの行動をとったな」
ゲンドウ「ああ。次はもう少しレイに接近させる。計画に変更はない」
冬月「14年前からのシナリオ。運命を仕組まれた子供達か。過酷すぎるな」
エヴァンゲリオン新劇場版:序
同シーンの後、ネルフ本部のバーにおいて、リツコが、ミサトに対し、白レイの更新されたセキュリティカードをシンジから渡して欲しいと依頼しました。おそらく、ゲンドウからリツコに対し、レイとシンジを接近させるよう指示があったと思われます。
以上からわかることは、「14年前のシナリオ」とは、シンジと白レイを親密な関係にさせることだったと推察されます(白レイに至っては強制的にシンジに好意を持つようプログラムしていた。)。
白レイ救出ためにシンジが覚醒
そして、破のラストにおいて、第10使徒のコアに取り込まれた白レイを救出するため、シンジが覚醒し、初号機が擬似シン化した際、ゲンドウと冬月は、次のような会話をしていました。
冬月「やはりあの2人で初号機の覚醒は成ったな」
ゲンドウ「ああ。我々の計画に辿り着くまであと少しだ」
エヴァンゲリオン新劇場版:破
目的:初号機の覚醒(擬似シン化)
以上によれば、白レイ(綾波シリーズ)が作られた目的は、シンジと白レイが互いに想い合うことで、レイを救出するためにシンジの感情を爆発、覚醒させ、初号機を擬似シン化させることにあったと思われます。
シンエヴァのAAAヴンダー甲板上において、ゲンドウが「綾波と式波型パイロットはもとよりこのために用意されていたものだ」と言っていましたが、綾波シリーズ(アドヴァンスト綾波シリーズを除く。)が作られた目的は、初号機を覚醒させることにあったという意味だと考えられます。
もう1つの目的:第12使徒との融合
綾波シリーズが作られた目的には、初号機を覚醒させることの他、第12使徒を制御するためにそれと融合させることも含まれていたと考察しています。
ロングヘア(長髪・もじゃ波)になった理由はなぜ?
シンエヴァのアディショナルインパクトの際、マリと共に8+9号機のエントリープラグ内にいたシンジは、「綾波」と言って初号機のエントリープラグへテレポートしました。
初号機のエントリープラグには、髪が伸びた白レイ(の魂)が座っており、シンジに対し、「ごめんなさい。碇君をエヴァに乗らないで済むようにできなかった」と言いました。
白レイは、ニアサードインパクトの際に初号機に取り込まれてから、14年もの間、シンジが初号機に乗れないように、ずっと魂の状態でエントリープラグ内にいたのだと思われます。
白レイがロングヘアになったのは、この14年間という長い年月の経過を意味していたと考えられます。
なお、このとき、ゲンドウが「もういいのかレイ」と言ったのは、「もうシンジを初号機に乗せてもいいのか」という意味だったと考えられます。
補完シーンのツバメ人形の意味
なお、白レイの補完シーンにおいて、ロングヘアの白レイが不気味な人形を抱いていましたが、当該人形をよく見ると「つばめ」と書いてありました。
つまり、あれは鈴原トウジとヒカリの子であるツバメの人形だったようです。
しかし、第3村でツバメと触れ合っていたのは黒レイであり、白レイではありません。
ロングヘアの白レイがツバメ人形を抱いていたのは、補完によって黒レイと統合され、1人の「綾波レイ」になったことを意味していたものと思われます。
最後に笑顔を見せた白レイが突然おなじみのショートカットヘアになっていたのも、このためだと考えられます。