今回は、エヴァンゲリオン新劇場版における、マルドゥック計画の内容、第3使徒と仮設5号機の関係、マルドゥック機関について考察します。
マルドゥック計画の主導者はゼーレ
マルドゥック(Marduk)とは、古代メソポタミアのバビロニア神話などに登場する男神のことを言うようです。
マルドゥック計画については、破における、北極ベタニアベースからネブカドネザルの鍵を持ち帰った加持リョウジと、碇ゲンドウ・冬月コウゾウとの次の会話で述べられました。
加持「いやはや大変な仕事でしたよ。懸案の第3使徒とエヴァ5号機は予定通り処理しました。原因はあくまで事故。ベタニアベースでのマルドゥック計画はこれで頓挫します。全てあなたのシナリオ通りです。でいつものゼーレ最新資料は先ほど。」
冬月「拝見させてもらった。マーク6建造の確証は役に立ったよ」
加持「結構です。これがお約束の代物です。予備として保管されていたロストナンバー。神と魂を紡ぐ道しるべですね」
ゲンドウ「ああ。人類補完の扉を開くネブカドネザルの鍵だ」
エヴァンゲリオン新劇場版:破
この会話は、同シーンの画コンテでは少し違っていました。
加持「いやはや大変な後始末でしたよ。北極ベースのデータは全て消去しました。4人目の少女の回収も予定通り。いつものゼーレの更新資料は先ほど」
冬月「6号機が月にある確証を得ただけで十分だ」
加持「そしてこれが第3使徒のサンプルと5号機の消失を引き換えにして手に入れたお約束の代物です。封印されていた禁断の道しるべですね」
エヴァンゲリオン新劇場版:破 画コンテ202以下
以上から分かることは、加持がネルフのスパイのような行動をとり、ゼーレを出し抜いて、マルドゥック計画を頓挫(物事がくじけること)させたことが分かります。
つまり、マルドゥック計画は、ゼーレが主導していたと思われます。
マルドゥック計画の内容
では、マルドゥック計画とは、どのような内容のものなのでしょうか。
マルドゥックと蛇龍ムシュフシュ
上記画像 ムシュフシュ – Wikipedia
上記の絵は、「マルドゥック」が、随獣である「蛇龍ムシュフシュ」の上に乗っているものです。
「ムシュフシュ」とは、古代メソポタミアの伝承に登場する霊獣であり、シュメール語で「恐ろしい蛇」を意味するようです。
ベタニアベース第3使徒はムシュフシュ
北極ベタニアベースでは、永久凍土から発掘された第3使徒の研究がされていました。
このことは、破の、ベタニアベースから脱出する際の加持の次のセリフから分かります。
加持「人類の力だけで使徒を止めることはできない。それが永久凍土から発掘された第3の使徒を細かく切り刻んで改めて得た結論です」
エヴァンゲリオン新劇場版:破
なお、同シーンの画コンテ14では、「骨しか残らぬまで切り刻んで」とされていました。
破の冒頭で登場した第3使徒が骨だけの姿だったのは、ベタニアベースで切り刻まれた結果だということです。
そして、劇中での描写は一瞬でしたが、第3使徒には、エントリープラグが刺さっていました。
北極ベタニアベースでは、第3使徒を切り刻み、エントリープラグを刺して、コントロール可能な状態にする研究がされていたのだと思われます。
つまり、マルドゥック計画とは、第3使徒を「蛇龍ムシュフシュ」に見立てて、人類がマルドゥックとなり、第3使徒を随獣化して制御できるようにする計画だったものと考えます。
マルドゥック計画の目的
では、ゼーレは、何のためにマルドゥック計画を行っていたのでしょうか。
ヒントになるのは、上記の会話にもあるように、ゼーレがマーク6の建造をネルフに内緒にしていたことです。
前提として、私は、ゼーレはマーク6を第12使徒と融合させて制御することで、任意のタイミングでサードインパクトを起こせるようにしていたと考察しています。
これと同じように、インパクト(儀式)の贄(にえ)として必要な第3使徒を制御、コントロールすることで、ゼーレのタイミングでインパクトを発生できるように計画していたと考えられます。
ネルフ(碇ゲンドウ)の妨害の目的
上記のとおり、ネルフ(ゲンドウ、冬月)は、加持を使ってマルドゥック計画を頓挫させました。
これにはどのような思惑があったのでしょうか。
破の、ゼーレと会話を終えた後のゲンドウは、冬月と次のようなやりとりをしていました。
ゲンドウ「真のエヴァンゲリオン。その完成までの露払いが初号機を含む現機体の務めというわけだ」
冬月「それがあのマーク6なのか。偽りの神ではなくついに本物の神を創ろうというわけか」
ゲンドウ「ああ。初号機の覚醒を急がねばならん」
エヴァンゲリオン新劇場版:破
マーク6でサードインパクトを起こそうとしていたゼーレと、初号機でサードインパクトを起こそうとしていたネルフとの間で、対立が生じていたことが分かります。
ゲンドウは、何としてでも初号機をトリガーにしてサードインパクトを起こしたかったので(初号機を覚醒、擬似シン化させるため)、ゼーレのコントロール化でインパクトの発生を目指すマルドゥック計画を妨害しようとしていたのだと思われます。
エヴァ仮設5号機の役割
仮設5号機は、第3使徒のいる北極ベタニアベースに配備されていました。
正式名称は「封印監視特化型限定兵器 人造人間エヴァンゲリオン 局地仕様 仮設5号機」で、真希波・マリ・イラストリアスがパイロットを務めました。
その名称を考えると、封印された第3使徒を監視し、非常時にはこれを殲滅することに特化したエヴァであると思われます。
簡易式ロンギヌスの槍と、狭い坑道を移動するための車輪付の4本脚と、アンビリカルケーブルの代わりにパンタグラフ(電車の屋根の取り付け、電線から電気を集める装置)を装備していました。
まさに、狭いベタニアベース内における作戦(第3使徒の監視、殲滅)に限定特化された機体だったといえます。
「仮設」の意味
名称に「仮設」とつく機体は、5号機だけです。何が「仮設」なのでしょうか。
本来のエヴァは「汎用人型決戦兵器」です。「汎用」とは様々な用途、分野で使えるという意味です。
これに対し、仮設5号機は、上記のとおり「封印監視特化型限定兵器」です。
つまり、通常のエヴァがあらゆる場面での運用を目的とされているのに対し、上記のとおり、仮設5号機は北極ベタニアベース内での第3使徒の監視、殲滅に特化されているため、「仮設」とされたのだと思われます。
任務が終われば、「仮設」でなく通常のエヴァ(汎用人型決戦兵器)として「正式に」配置される予定だったのではないでしょうか。
マルドゥック機関とは
最後に、マルドゥック「機関」について説明します。名前が似ていてややこしいのですが、マルドゥック「計画」とはあまり関係がありません。
新世紀版(テレビアニメ版)において、マルドゥック機関は、エヴァンゲリオンのパイロット選出のために設けられた人類補完委員会直属の諮問機関とされている組織でした。
上記のマルドゥックとムシュフシュの関係から考えると、ここでの「マルドゥック」の意味は、パイロット(マルドゥック)によって、エヴァを随獣(ムシュフシュ)として制御するということであると思われます。
マルドゥック機関は、組織の実体がなく、実権を握っているのはネルフ(ゲンドウ)でした。
パイロット選出にあたり、マルドゥック機関という第三者機関の報告書に基づいているという体裁をとりながら、実際はパイロットをいつでも接収できるよう、候補者をシンジのクラス(2年A組)に集めていました。
以上のことは、例えば、テレビアニメ版における加持リョウジの次のセリフから伺えます。
第15話「マルドゥック機関と繋がる108の企業の内106がダミーだったよ」
第17話「マルドゥック機関は存在しない。影で操っているのはネルフそのものさ」
テレビアニメ版
新劇場版においては、「マルドゥック機関」との明言はありませんでしたが、序で赤木リツコが「綾波レイ14歳。マルドゥックの報告書によって選ばれた最初の適格者。第1の少女。すなわちエヴァンゲリオン試作零号機専属操縦者」と言っていました。
また、序の画コンテでは、葛城ミサトのシンジに関するセリフの中に「マルドゥックの報告書による3人目の適格者」というものがありました。
ここでいう「マルドゥック」は、明らかに「マルドゥック機関」を指していますので、新劇場版でもその設定は残っていたと思われます。