今回は、エヴァンゲリオン新劇場版における、DSS(ディーエスエス)チョーカーについて考察します。
DSSチョーカーとは
DSSチョーカーの正式名称は、「Deification Shutdown System Choker」、つまり「神格化」(Deification)を強制的に止めるシステムの首輪という意味です。
首に装着させ、装着者が「神格化」すると、自動で爆発して殺害する仕組みになっています。
以下の赤木リツコの碇シンジに対する説明によれば、「神格化」はパイロットの「覚醒」と同義といえます。そして、これは「(半)使徒化」を意味するものと考えられます(後述)。
リツコ「それと、あなたの深層シンクロテストの結果が出ました。シンクロ率は0.00パーセント。仮にあなたがエヴァに搭乗しても、起動しません」
鈴原サクラ「そっかぁ、よかったですね碇さん」
リツコ「とはいえ、先に突如12秒間も、覚醒状態と化した事実は看過できない。ゆえにあなたには、DSSチョーカーを装着させてあります」
シンジ「何ですかこれ?」
リツコ「私達への保険。覚醒回避のための物理的安全装置。私達の不信と、あなたへの罰の象徴です」
シンジ「どういうことですか?」
リツコ「エヴァ搭乗時、自己の感情に飲み込まれ、覚醒リスクを抑えられない事態に達した場合、あなたの一命をもってせき止めるということです」
エヴァンゲリオン新劇場版:Q ネーメジィスシリーズ戦後
なお、DSSチョーカーは、「覚醒」の有無を問わず、リモコンによる手動の遠隔操作によって起爆させることもできます(Qのシンジがネルフに連れ去られたシーン)。
装着者:シンジ、カヲル、マリ、アスカ
劇中において、DSSチョーカーを装着していたのは、次の人物です。
- シンジ:Qのネーメジィスシリーズ戦後、ヴィレによって装着された。
- 渚カヲル:Qでシンジを第13号機に搭乗するよう説得した際、シンジのDSSチョーカーを外して自ら装着した(理由は後述)。
- 真希波マリ:シンエヴァ特典映像3.0(-120min.)、つまり、Q冒頭US作戦の120分前の時点において、既に装着していた。
- 式波アスカ:プラグスーツで首元が見えないが、マリと同じく、Q冒頭US作戦の120分前の時点において、既に装着していたと思われる。
装着の目的(起爆条件)
パイロットの覚醒防止
上記のとおり、DSSチョーカーは、パイロットの「覚醒」を防止する(覚醒を検知すると爆発する)システムです。
では、「覚醒」とは、どのような状態をいうのでしょうか。
「覚醒」とは、強い意思、決意によって、エヴァとのシンクロ率が大幅に上昇した状態を意味すると考えています。
そして、生命の実と知恵の実をもったエヴァに搭乗したパイロットが覚醒すると、エヴァの擬似シン化が起きると考察しています。
擬似シン化したエヴァは、インパクト(儀式)のトリガーになってしまいます。ヴィレは、インパクトの発動を防ぐため、その前提となるパイロットの覚醒を防止するべく、DSSチョーカーを使用していると考えられます。
覚醒=(半)使徒化
また、覚醒状態に至ったパイロットは、シンクロ率が高まりすぎてエヴァからの干渉を受け、「(半)半使徒化」という現象がおきます。
Qの(ニア)フォースインパクトにおいて、カヲルのDSSチョーカーが起爆した際、画コンテには、カヲルについて「半使徒化」と記載されています(1326)。
また、カヲルが装着したDSSチョーカーが、カヲルを「13番目の使徒」と認識しました(パターン青は使徒の信号)。
マリ「DSSチョーカーにパターン青?ないはずの13番目?ゲンドウ君の狙いはこれか」
エヴァンゲリオン新劇場版:Q (ニア)フォースインパクト
「覚醒」を防止するためのDSSチョーカーが、カヲルの「使徒化」を検知したということは、パイロットが「覚醒」すると「(半)使徒化」するという結論が導かれます。
さらに、「(半)使徒化」すると、同時に「エヴァの呪縛」にもかかると思われます。
以上をまとめると、「覚醒」=「(半)使徒化」=「エヴァの呪縛にかかる」と言えます。
なお、この点に関連し、破ラストのニアサードインパクトにおいて、覚醒し、トリガーとなったシンジと初号機は、第11使徒になったと考察しています。
シンジに装着させた理由
以上を前提に、ヴィレは、シンジが再度覚醒し、初号機を擬似シン化させ、再びインパクト(儀式)のトリガーとならないように、シンジに対してDSSチョーカーを装着させたと思われます。
リツコ「彼(シンジ)を初号機に優先して奪取ということは、トリガーとしての可能性がまだあるということよ。ミサト!DSSチョーカーを!」
エヴァンゲリオン新劇場版:Q シンジがマーク9に連れ去られるシーン
アスカとマリが装着していた理由
では、擬似シン化する可能性のない2号機と8号機のパイロットであるアスカとマリは、なぜDSSチョーカーを装着する必要があったのでしょうか。
上記のとおり、パイロットの「覚醒」=「(半)使徒化」と考えます。
そうだとすれば、エヴァが擬似シン化してインパクト(儀式)のトリガーにはなり得なくても、使徒としてインパクトの贄(にえ)にはなる可能性があります。
実際、シンエヴァのフォース(アナザー)インパクトにおいて、第9使徒の力を解放して使徒化したアスカは、儀式の贄にされてしまいました。
マリ「しまった!ゲンドウ君の狙いは使徒化した姫か」
シン・エヴァンゲリオン劇場版 第13号機VS新2号機
小括
以上をまとめると、DSSチョーカーの装着目的は、パイロットの「覚醒」を防止することで、インパクトのトリガー又は贄になることを防止することであると考えます。
カヲルを恐れてヴィレが作った
DSSチョーカーを作ったのは、ヴィレだと思われます。
ヴィレクルーのアスカとマリが装着していた一方、ネルフの黒レイは装着していなかったからです(Qでシンジが黒レイの部屋を訪れたシーン)。
なお、DSSチョーカーの内部には、「使徒封印用呪詛文様」が施されていましたので(Q画コンテ278には、『文様がメビウスリングになっている』と記載)、ゼーレの科学技術が応用されていると思われます。
ヴィレがDSSチョーカーを作った目的は、もともとカヲルの「覚醒」を警戒したためと説明されています。
カヲル「分かっている。リリンの呪いとエヴァの覚醒リスクは、僕が引き受けるよ」
シンジ「あ…渚君…」
カヲル「気にしなくていいよ。もともとは僕を恐れたリリンが作ったものだからね。いずれはこうするつもりだったんだ」
エヴァンゲリオン新劇場版:Q 第13号機に搭乗するようシンジを説得するシーン
では、ヴィレは、どのような状況下において、カヲルを警戒したのでしょうか。
シンエヴァのフィナーレ舞台挨拶において、庵野監督は、碇ゲンドウと冬月コウゾウが失脚し、カヲルがネルフの司令、加持リョウジが副司令となる設定があったことを語られたようです。
つまり、破のラストでニアサードインパクトを起こしたことにより、ネルフ関係者は幽閉され、ゲンドウと冬月は失脚し、その後ネルフの司令(ゲンドウのポスト)にはカヲルが、副指令(冬月のポスト)には加持が就きました。
突然、得体の知れない第1使徒のカヲルがネルフの司令になったわけですから、ネルフ関係者(特に後のヴィレクルー)からすれば、人類(リリン)の敵なのか味方なのか分からず、相当動揺したと思われます。
そこで、カヲルが司令になることを受け入れる条件として、カヲルが人類を裏切ったときにはすぐに殺害できるように、DSSチョーカーを付けさせようとしていたのではないかと考えられます。
なぜ外せたか?誰でも外せる
DSSチョーカーは、一旦装着すると外すことが難しいのでしょうか。
劇中において、DSSチョーカーを外すことができたのは、次の人物です。
- カヲル:Qでシンジを第13号機に搭乗するよう説得した際、シンジのDSSチョーカーを外して自ら装着した(理由は後述)。
- オリジナルアスカ:シンエヴァの新2号機VS第13号機戦において、クローンアスカのDSSチョーカーを外した(というか、クローンアスカをDSSチョーカーからすり抜けさせた。)。
- マリ:シンエヴァラストの宇部新川駅において、大人になったシンジのDSSチョーカーを外した(意味は後述)。
この点について、DSSチョーカーを外すことができた3人の共通点は、使徒ということであるため、使徒の能力によって外せたのだという考察が見受けられますが、私は違うと思います。
上記のとおり、DSSチョーカーは、パイロットが「覚醒」=「(半)使徒化」することを防ぐためのアイテムですので、使徒であれば外すことができるというのでは本末転倒です。
使徒にこそ外されたくないアイテムなわけですから、外せない機能を持たせるのであれば、特に使徒には外されないよう設計されているはずです。
なお、私は、マリは使徒でないと考察しています。
結論としては、上記3人がDSSチョーカーを外せたことに深い意味はなく、単純に装着者以外の人物であれば誰でも外せる仕様なのだと思われます。
カヲルはなぜ自分の首に付けたのか
ところで、カヲルは、Qの、シンジを第13号機に搭乗するよう説得するシーンにおいて、シンジの首からDSSチョーカーを外した後、それを自らの首に装着しました。
なぜ、カヲルは、外したDSSチョーカーを捨てずに、あえて自分の首に装着したのでしょうか。
カヲルは、第1使徒ではありますが、フォースインパクトを起こすことには反対の立場をとっていました。
逆に、シンジと共に、第13号機で2本の槍(ロンギヌスの槍とカシウスの槍)を使い、世界の修復を行おうとしました。具体的には、シンエヴァでゲンドウが起こしたアディショナルインパクトと同じ現象(世界の書き換え)を起こそうとしていたのだと思われます。
カヲル「碇シンジ君。君の希望はドグマの爆心地に残る2本の槍だけだ。それが補完計画発動のキーとなっている。僕らでその槍を手にすればいい。そうすれば、ネルフもフォースインパクトを起こせなくなるし、第13号機とセットで使えば、世界の修復も可能だ」
エヴァンゲリオン新劇場版:Q 第13号機に搭乗するようシンジを説得するシーン
カヲル「カシウスとロンギヌス、対の槍が必要なんだ。なのにここには同じ槍が2本あるだけ…」
エヴァンゲリオン新劇場版:Q セントラルドグマ
ゲンドウ「絶望と希望の槍が、互いにトリガーと贄となり、虚構と現実が溶け合い、全てが同一の情報と化す。これで自分の認識、すなわち、世界を書き換えるアディショナルインパクトが始まる。私の願いが叶う、唯一の方法だ」
シン・エヴァンゲリオン劇場版 アディショナルインパクト
しかし、第13号機のパイロットの2人(シンジとカヲル)に覚醒する事態が生じると、フォースインパクトが起きてしまうため、万一そうなってしまった場合には自ら死亡してフォースインパクトを止めるべく、あえてチョーカーを装着したのだと考えられます。
カヲル「分かっている。リリンの呪いとエヴァの覚醒リスクは、僕が引き受けるよ」
エヴァンゲリオン新劇場版:Q カヲルがシンジのチョーカーを外したシーン
実際、(ニア)フォースインパクトが起きてしまい、カヲルは第13使徒に堕とされ、DSSチョーカーが起爆してしまいました。
シンジが自ら装着した理由
シンエヴァの、シンジがマイナス宇宙へ行ったゲンドウを追う前のシーンにおいて、シンジは、葛城ミサトから差し出されたDSSチョーカーを自ら首に装着しました。
シンジ「ミサトさんが背負ってるものを、半分引き受けるよ」
ミサト「そのためには、碇ゲンドウと戦うことになるわよ」
シンジ「僕は、僕の落とし前をつけたい」
シン・エヴァンゲリオン劇場版
QにおけるシンジのDSSチョーカーは、上記のとおり、リツコから「私達の不信と、あなたへの罰の象徴です」と言われたように、ニアサードインパクトを起こした代償として、他者からペナルティとして無理やり付けられたものでした。
一方、アスカとマリのDSSチョーカーは、他者に強制されたわけではなく、エヴァパイロットとしての責任を自覚し、覚悟をもって自ら装着したものだと思われます。
また、上記のとおり、カヲルのDSSチョーカーについても同様です。
シンエヴァでシンジが自らDSSチョーカーを装着した描写は、自分がニアサードインパクトを起こしてしまったことから目を背けずに、アスカ、マリ、カヲルと同じように、今度は自らの意思で責任をとるために装着したことを表現したのだと思われます(シンジが大人になったことの描写)。
シンエヴァラストでマリがDSSチョーカーを外した意味
シンエヴァラストの宇部新川駅のホームにおいて、「エヴァの呪縛」が解け、大人になったマリは、同じく大人になったシンジの首に付いていたDSSチョーカーを外しました(マリが外せたことに深い意味がないことは上記のとおり)。
その後、マリとシンジは、電車には乗らず、階段を上って駅の外へと向かいました。
この描写は、ループするエヴァ世界(電車で表現)に戻らず、エヴァ世界からシンジとマリが出て行ったこと、つまりエヴァンゲリオンの物語が終わったことを意味するものと思われます。
そして、マリがシンジのDSSチョーカーを外したのは、主人公であるシンジを通して、庵野監督や制作スタッフ達が、自分達の「エヴァの呪縛」をも断ち切り、エヴァの物語を終わらせたことを表現したように感じました。