今回は、エヴァンゲリオン新劇場版における、ネブカドネザルの鍵の正体、効果、碇ゲンドウの使用目的、ゼーレとの関係等について考察します。
ネブカドネザルの鍵とは
ネブカドネザルの鍵は、破において、加持リョウジが北極ベタニアベースからネルフ本部の碇ゲンドウと冬月コウゾウのもとへ持ち帰ったアイテムです。
人体の神経系の頭部に取っ手を付けたようなデザインで、アタッシュケースの中に入れられ厳重に保管されていました。
なお、画コンテの段階では、「固められた首らしきシルエット」とされていました(画コンテ207)。
「ネブカドネザル」のネーミングは、新バビロニアの王で、マルドゥック神殿を発展させるなどして、旧約聖書にも「ネブカドネツァル」として登場する歴史上の人物「ネブカドネザル2世」からとられたと言われています。
ネブカドネザルの鍵について、加持とゲンドウは、次のようなやりとりをしていました。
加持「いやはや大変な仕事でしたよ。懸案の第3使徒とエヴァ5号機は予定通り処理しました。原因はあくまで事故。ベタニアベースでのマルドゥック計画はこれで頓挫します。全てあなたのシナリオ通りです。でいつものゼーレ最新資料は先ほど。」
冬月「拝見させてもらった。マーク6建造の確証は役に立ったよ」
加持「結構です。これがお約束の代物です。予備として保管されていたロストナンバー。神と魂を紡ぐ道しるべですね」
ゲンドウ「ああ。人類補完の扉を開くネブカドネザルの鍵だ」
エヴァンゲリオン新劇場版:破
なお、同シーンの画コンテでは、説明が若干異なっていました。
加持「そしてこれが第3使徒のサンプルと5号機の消失を引き換えにして手に入れたお約束の代物です。封印されていた禁断の道しるべですね」
ゲンドウ「ああ。人類補完の要。ネブカドネザルの鍵だ」
エヴァンゲリオン新劇場版:破 画コンテ205以下
ネブカドネザルの鍵の効果
加持が持ち帰ったネブカドネザルの鍵は、エヴァンゲリオン新劇場版:Qラストの(ニア)フォースインパクトの際に、ゲンドウが使用しました。
神と魂を紡ぐ道しるべ
上記のとおり、加持がネブカドネザルの鍵を持ち帰った際には、「神と魂を紡ぐ道しるべ」と言っていました。これはどのような意味なのでしょうか。
「紡ぐ」(つむぐ)という言葉がややこしいのですが、同セリフの英語訳では「The guidepost that will link the spirit with the divine.」となっていました。
「link」ということは、「繋ぐ」「接続する」というニュアンスになるかと思います。つまり、ネブカドネザルの鍵は、「神と魂を繋げるアイテム」「神へのアクセスを可能にするアイテム」といったものなのだと考えます。
使用方法は分かりませんが、使用することによる具体的な効果としては、劇中描写から、肉体的効果(ハード面)と内面的効果(ソフト面)の2つがあると思われます。
1 肉体的効果(ハード面)
ネブカドネザルの鍵を使ったゲンドウは、人外の肉体を手に入れました。
Qの、(ニア)フォースインパクトの際にゼーレのモノリスと最後の会話するシーンにおいて、ゲンドウは、空中に浮遊することができていました。
シンエヴァでは、目元が十字に輝き、強力なビームを発射するシーンも描かれました。さらに、赤木リツコに頭部を銃弾で打たれても死ぬことはありませんでした。
ゲンドウは、まるで使徒のような能力を手に入れたかのように見えますが、後述するとおり、単に使徒化したわけではないと考えています。
2 内面的効果(ソフト面)
ネブカドネザルの鍵を使ったゲンドウは、内面においても人外化しました。
この点については、次のセリフで説明がされています。
ミサト「碇ゲンドウ。ネブカドネザルの鍵を使い、望んでヒトを捨てたか」
ゲンドウ「この世の理を超えた情報を自分の体に書き加えただけだ。問題はない」「私が神を殺し、神と人類を紡ぎ、使徒の贄をもって人類の神化と補完を完遂させる」
シン・エヴァンゲリオン劇場版 ヴンダー甲板上
「理」(ことわり)とは、当然とされている道理や法則などを意味します。
つまり、ゲンドウは世界の道理、法則などを超えた神の情報を自身にインストールしたということだと思います。
これにより、ゲンドウはゼーレしか知り得なかった死海文書外典の内容、ゴルゴダオブジェクトの存在、黒き月から槍を新造する方法、アディショナルインパクトの方術、さらには、次のセリフにあるように、エヴァ世界がループしていることまで知ることができていました(新劇場版のゲンドウが本来知り得るはずのない旧劇場版の結末に関する情報を知っていた。)。
シンジ「父さんは何を望むの?」
ゲンドウ「お前が選ばなかったATフィールドの存在しない全てが等しく単一な人類の心の世界。他人との差異がなく、貧富も差別も争いも虐待も苦痛も悲しみもない、浄化された魂だけの世界。そして、ユイと私が再び会える安らぎの世界だ」
シン・エヴァンゲリオン劇場版 アディショナルインパクト
単に使徒化したわけではない
以上からすると、ゲンドウは、ネブカドネザルの鍵によって使徒化したかのように思われるかもしれませんが、単なる使徒化ではありません。
ゲンドウ「この世の理を超えた情報を自分の体に書き加えただけだ。問題はない」「私が神を殺し、神と人類を紡ぎ、使徒の贄をもって人類の神化と補完を完遂させる」
シン・エヴァンゲリオン劇場版 ヴンダー甲板上
上記セリフにおいて、ゲンドウは「神」と「使徒」を明確に使い分けています。上記セリフでいう「神」は、贄(にえ)となる「使徒」(第3~12の使徒)とは別の、より上位の存在、具体的にはエヴァ世界の制作者を指していると考えます。
そうだとすれば、ゲンドウは、ネブカドネザルの鍵によって、「神」(制作者)と人類を紡ぐ存在、つまり、第1使徒である渚カヲルと同等の地位になったと考えます。
このことは、渚カヲルを第13使徒に堕としたことと関係しています。
人類補完の扉を開く
上記のとおり、ネブカドネザルの鍵は、人類補完計画の扉を開く(要となる)アイテムであると説明されましたが、以上の考察からすると、その意味は、「神」へのアクセス可能性、すなわち、人類補完計画を遂行するために必要な情報(ソフト面)と、それに耐えうるだけの肉体(ハード面)を手に入れるために人外化するアイテムだったということができます。
予備として保管されていたロストナンバー
ところで、上記の加持のセリフによれば、加持が北極ベタニアベースから持ち帰ったネブカドネザルの鍵は、「予備として保管されていたロストナンバー」とのことでした。これはどのような意味なのでしょうか。
つくったのはゼーレ
ネブカドネザルの鍵が保管されていたのは北極ベタニアベースですが、全記録全集によれば、当該基地は、「秘密結社ゼーレ直轄 第3の使徒厳重保管用基地 ベタニアベース」とされていました。
つまり、月面タブハベース同様、ネルフ本部の司令、副司令であるゲンドウや冬月ですら自由に出入りすることができないゼーレ直轄の極秘基地でした(そのため、加持のスパイ活動が必要だった。)。
ゼーレ直轄の極秘基地に保管されていたということは、ネブカドネザルの鍵をつくったのは、ゼーレであると推察されます。
上記のとおり、ネブカドネザルの鍵は、人類補完計画を遂行するために必要なアイテムだったわけですが、もともと人類補完計画を遂行しようとしていたのはゼーレです。
したがって、ネブカドネザルの鍵をつくったのはゼーレ以外には考えられません。
ゼーレは、人外未知の科学力を持ち、人類に文明を与えた地球外生命体であると考察していますので、ネブカドネザルの鍵をつくることも可能だったと考えます。
ゼーレのメンバー自身も使用していた
ゼーレは、ネブカドネザルの鍵をつくっただけでなく、自らも使用していたと考えます。
「予備として保管されていたロストナンバー」ということは、ネブカドネザルの鍵にはナンバリングがなされており、既に何個かは使用されているが、その予備が残されていたと解釈することができます。
新劇場版のゼーレは、7人であり、全員モノリスの姿で登場しました。
ゼーレのメンバーは、ネブカドネザルの鍵を使った後のゲンドウと同じように、エヴァ世界について深い知見を有していました。
ネブカドネザルの鍵は、少なくとも8本以上創られ、その内7本をゼーレのメンバー7人が使用し、予備として保管されていたものを加持が奪取し、ゲンドウのもとに届けられたのだと考えます。