新旧ファーストインパクト(ジャイアントインパクト)と月

 今回は、エヴァンゲリオンシリーズにおける、ファーストインパクト(ジャイアントインパクト)と月の設定について考察します。

 ファーストインパクトは、数十億年前(テレビアニメ版第7話によるとおよそ40億年前)、ある天体が地球に衝突した事件であり、地球の生命の起源となる大イベントでした。

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天体衝突

 実際に存在する、月の形成過程を説明するジャイアントインパクト説(原始地球に火星ほどの大きさの天体ティアが衝突した結果月が形成されたとする学説)をモチーフにしていると思われます。

 テレビアニメ版、旧劇場版、コミック(漫画)版、新劇場版とでそれぞれ設定が異なっているため、まずはこれらを比較してみます。

テレビアニメ版、旧劇場版:白き月と黒き月の両方が落下

 まず、地球の南極に「生命の実」を得た第1使徒アダムの卵である「白き月」が落下しました。

 アダムからは同じ「生命の実」を得た使徒達(第3~17使徒)が生まれ、地球に繫栄しました。

 その後、地球の箱根(後の第3新東京市、ネルフ本部)に「知恵の実」を得た第2使徒リリスの卵である「黒き月」を含む天体が落下しました。

 この「黒き月」を含む天体の衝突こそが、ファーストインパクトでした。

 そして、「黒き月」を除いた天体の残骸が地球の衛星である「月」になりました。

 ファーストインパクトの凄まじい衝撃によって、アダムとアダムより生まれた使徒達は眠りにつき、かわりに「黒き月」の中にいたリリスとリリスから生まれた第18使徒リリン(人類)が繁栄を始めました。

 しかし、後のセカンドインパクトによって、アダムから生まれた使徒達が目覚め、「生命の実」を持つ生命と「知恵の実」を持つ生命との対立構造、生存競争が生じることになりました。

コミック漫画版

 コミック版でも上記と設定はほぼ同じですが、若干異なっています。

 第12巻において、葛城ミサトは、「地球自体が昔から宿していた生命の卵がアダム」と言っています。

 つまり、アダムは初めから地球にいたことになっています。

新劇場版:白き月は落ちなかった

 新劇場版での設定は、上記いずれとも大きく変わっていると思われます。

 まず、大前提として、地球の衛星である「月」が「白き月」であるとの設定になっています。

 このことは、間接的にではあるものの、株式会社カラーの公式ツイッターで明かされています。

 そうすると、地球に落下したのは「黒き月」だけであり、「白き月」は落下しなかったことになります(宇宙空間にあるため。)。

 この点について、破の、加持リョウジによるセカンドインパクト回想シーンにおいて、南極に黒い球体が出現する描写があります。

 あの黒い球体こそが「白き月」であるとの考察が見受けられますが、あれは「白き月」ではありません。

 同シーンの画コンテ(401改)によると、黒い球体は「穴」であると書かれています。おそらく、ガフの扉であると思われます。

 なお、シンエヴァの、碇ゲンドウの補完シーンにおいて、セカンドインパクト前にも「月」が存在していた描写がありました。

白き月(衛星の月)の中にはアダムスがいた

 では、新劇場版の「月」(=白き月)には何があったでしょうか。

 月面タブハベースは、序のDVD特典ディスクによれば、「ネルフ第7支部発掘用仮設基地」とされています。

 つまり、タブハベースは、白い巨人を「発掘」する基地でした。

 「発掘」ということは、白い巨人は月に埋まっていたということになります。

 私は、月面タブハベースにいた白い巨人は、アダムスの1体であると考察しています。

 月面の巨人がアダムスの1体であることの考察はこちら

 したがって、「月」(=白き月)には、アダムス達が入っていたと考えられます。

 以上をまとめると、新劇場版の「白き月」は、テレビアニメ版、旧劇場版と比較すると、「黒き月」のリリスと対になる存在(アダム、アダムス)が中にいた点では共通するものの、「白き月」が一度も地球に落ちていない点で異なっています。また、コミック版との比較でも、リリスと対になる存在(アダム、アダムス)がもともと地球にはいなかったという点において異なっています。

設定変更の意味

 新劇場版でのファーストインパクトの設定変更は、何を意味するのでしょうか。

 テレビアニメ版、旧劇場版のファーストインパクトは、地球における異なる生命(アダムとリリス)の対立構造、生存競争の始まりという意味合いがありましたが、新劇場版では、この対立構造がなくなっているのです。

 この点に関し、シンエヴァのゴルゴダオブジェクトで、ゲンドウは、シンジに対し、次のように言いました。

 ゲンドウ「ゴルゴダオブジェクトだ。人ではない何者かがアダムスと6本の槍とともに神の世界をここに残した。私の妻、お前の母もここにいた。」

シン・エヴァンゲリオン劇場版

 アダムスと同列的に「私の妻、お前の母も」と言っています。

 前提として、私は、ユイはリリスと同質の存在と考えていますので、当該発言は、神の世界であるゴルゴダオブジェクトには、アダムスと、アダムスの同列の立場としてリリスがいたことを示唆していると考えます。

 ゴルゴダオブジェクトの考察はこちら

 ユイ=神=リリスの考察はこちら

 また、私は、アダムスとリリスは共に熾天使(してんし・セラフィム)であり、リリスは熾天使の中でも最強でありながら神に反逆し地上に堕ちた12枚の翼を持つ堕天使ルシファーをモチーフにしていると考察しています。

 アダムスとリリスが熾天使をモチーフにしていることの考察はこちら

 つまり、新劇場版のファーストインパクトは、神の世界にいた熾天使達の中から、ルシファーたるリリスのみが地上に下りた(堕ちた)イベントだったのではないでしょうか。

 地球に堕ちたルシファーたるリリスは、地球の神になりました。

 序におけるダイヤモンドのような第6の使徒戦では、葛城ミサトが、「この星の生命の始まりでもあり終息の要ともなる第2の使徒リリスよ」と言いました。

 新劇場版のリリスは、リリン(人類)以外を含む地球の全ての生命の始祖という設定になっているのです。

アダムスは本来地球に降りないはずだった

 繰り返しになりますが、新劇場版のファーストインパクトは、アダムスとリリスの対立構造の始まりを意味していません。

 そもそも「月」(=白き月)のアダムスは、本来、地球に降りる予定すらなく、ゼーレやネルフによって、人為的に地球に引き込まれたものと思われます。

 このことは、シンエヴァにおける次の各セリフに現れていると考えます。

 NHG艦三隻を沈めた後の真希波マリ「もうリリンが君らを使うこともない。ゆっくり眠りなアダムス達」

 AAAヴンダー甲板上におけるゲンドウ「知恵の実を食した人類に神が与えていた運命は2つ。生命の実を与えられた使徒に滅ぼされるか、使徒を殲滅しその地位を奪い知恵を失い永遠に存在し続ける神の子と化すか、我々はどちらかを選ぶしかない。ネルフの人類補完計画は後者を選んだゼーレのアダムスを利用した神への儚いレジスタンスだが、果たすだけの価値のあるものだ」

シン・エヴァンゲリオン劇場版

 つまり、アダムス達は、本来「月」(=白き月)の中で眠っていましたが、それをリリン達がたたき起こし、地球のごたごたに巻き込んだという状況だったのではないでしょうか。

 そのため、リリスが「第2使徒」であるのに対し、アダムスは「使徒」と呼ばれていないのだと考えます。

使徒も設定変更

 上記のとおり、アダムスは本来地球に降りる予定ではなかったと考えます。

 これに付随し、使徒の設定も変わっていると思われます。

 すなわち、アダムより生まれし使徒が、対立するリリスやリリンを滅ぼしに来るという構図ではなくなっているのです。

 Qの(ニア)フォースインパクトや、シンエヴァのアナザー(フォース)インパクトでは、第13号機である「アダムスの生き残り」が、使徒を贄にしています。

 使徒がアダムスより生まれし者なのだとすれば、アダムスの贄にされるはずはありません。

 使徒の設定変更の考察はこちら

 新劇場版では、アダムスもリリスも共に知恵の実を食しており、使徒は、知恵の実を持つ存在を滅ぼすか、それらの贄とされる存在に変わっています。

 アダムスも知恵の実を持つことの考察はこちら

まとめ

 以上のとおり、新劇場版のファーストインパクトは、異なる生命の対立構造の始まりではなく、神の世界にいた熾天使達の中から、堕天使ルシファーたるリリスが地上に下りた(堕ちた)イベントだったものと考えます。

 物理的には、次のような出来事があったと考察されます。

 神の世界ゴルゴダオブジェクトにアダムスと6本の槍とリリスがいた。これらが全て入ったある天体が地球に衝突した。衝突によって、当該天体から「黒き月」が地球の箱根(後の第3新東京市ネルフ本部)に落ちた。天体の残骸は中にアダムスを宿したまま地球の衛星「白き月」となった。

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