今回は、エヴァンゲリオン新劇場版において、様々な意味で使用されている「神」について考察します。
新劇場版では、「神」と呼ばれる対象が、シーンによって異なっています。
英語訳で見ても、異なる「神」について「God」「divine」など同じ表現が用いられており、形式的に区別ができません。
そこで、色々な意味で使われている「神」についての整理を試みました。
まず、説明の便宜上、新劇場版における「神」を下図のとおり整理しました。「神」と呼ばれる存在は、「広義の神」としています。
以下、この図の順番に従って説明します。
最高神:制作者:エヴァイマジナリー
はじめに、最高神について説明します(分かり易く整理するために私が勝手にそう呼ぶだけです。)。
最高神は、エヴァ世界を創造した存在、つまりアニメ制作者です。アニメによって「虚構」(フィクション)と「現実」を同一化できます。
エヴァ世界のキャラクター達にとってはエヴァ世界が「現実」ですので、制作者は、自分達が想像した「虚構」(フィクション)をエヴァ世界で「現実」化しているということになります。
制作者は、エヴァ世界においては、エヴァンゲリオンイマジナリーとなって登場しました。
以上のことは、シンエヴァにおける次のセリフから読み取れます。
碇ゲンドウ「お前の記憶ではそう映るのか。エヴァンゲリオンイマジナリー。葛城博士が予測した現世(※)には存在しない想像上の架空のエヴァだ。虚構と現実を等しく信じる生き物、人類だけが認知できる」
ゲンドウ「絶望と希望の槍が互いにトリガーと贄となり、虚構と現実が溶け合い、全てが同一の情報と化す。これで自分の認識、すなわち世界を書き換えるアディショナルインパクトが始まる。私の願いが叶う唯一の方法だ」
シン・エヴァンゲリオン劇場版 アディショナルインパクト
※ 上記の「現世」とは、エヴァ世界のキャラクター達にとっての現実の世界(アニメ内)を指していると思われます。
「自分の認識」の書き換えと「世界」(エヴァ世界)の書き換えが同義であるとしており、エヴァンゲリオンイマジナリーは、まさにエヴァ世界の制作者といえるのではないでしょうか。
ゲンドウは、アディショナルインパクトによって制作者にアクセスすることで、エヴァ世界の書き換えをしようとしたのだと思われます。
なお、エヴァ世界はループしているところ、旧劇場版のラストで新たな世界(新劇場版)の創造主となった「旧劇場版の初号機」も制作者と同質の存在になったと考えます(後述するオリジナルアスカのセリフを参照)。
制作者を指して「神」と呼ぶセリフ一覧
加持リョウジ「これがお約束の代物です。予備として保管されていたロストナンバー。神と魂を紡ぐ道しるべです」
ゲンドウ「ああ。人類補完の扉を開くネブカドネザルの鍵だ」
エヴァンゲリオン新劇場版:破
ネブカドネザルの鍵によって、ゲンドウは、制作者の情報(ループしていることなどエヴァ世界の設定情報)を身体に書き加えたのだと思われます。
そのため、碇シンジに対し、「お前が選ばなかったATフィールドの存在しない全てが等しく単一な人類の魂だけの世界」と言ったように、新劇場版のゲンドウが本来知るはずのない旧劇場版の結末に関する情報も知ることができていました。
冬月コウゾウ「だがゼーレとて気づいているのだろう。ネルフの究極の目的に」
ゲンドウ「そうだとしても我々は我々の道を行くだけだ。たとえ神の理と敵対することになろうとも」
エヴァンゲリオン新劇場版:破
「神の理」(ことわり)とは、制作者が定めた「知恵の実を持つ存在は、滅びるか知恵を失うしかないルール」(神の2択)のことを指すものと思われます。
葛城ミサト「神殺しの力。見極めるだけよ」
エヴァンゲリオン新劇場版:Q
AAAヴンダーについてのセリフです。
私は、ヴンダーはアダムスから造られたと考察していますので、アダムスから見て「神殺し」となる対象は、より上位の「神」である「制作者」しかいないと思われます。
なお、「神殺し」とは、物理的に殲滅するということではなく(それは不可能)、神の理に従わないことを意味していると考えます。
ゲンドウ「死をもってあなた方の魂をあるべきところに返しましょう。宿願たる人類補完計画と諦観された神殺しは私が行います。ご安心を」
ゼーレ「我らの願いは既に叶った。よい。全てこれでよい。人類の補完。安らかな魂の浄化を願う」
エヴァンゲリオン新劇場版:Q
「諦観」とは、本質を見極めること、あきらめることの意味がありますが、ここでは後者の意味で使用されていると思われます。
ゼーレは神殺し(上記のとおり、神の理に従わないこと)をあきらめたが、ゲンドウがそれを引き継ぐという意味になると考えます。
赤木リツコ「同じ神殺しの力。やっかいね」
シン・エヴァンゲリオン劇場版
エアーレーズングに対するセリフですが、上記Qのミサトのセリフと同様です。
オリジナルアスカ「最後のエヴァは神と同じ姿。あなたも愛とともに私を受け入れるだけ。さあこちらへ」
シン・エヴァンゲリオン劇場版
第13号機についてのセリフです。
私は、第13号機は「神と似たる者は誰か」を意味する天使ミカエルがモチーフになっていると考察しています。
第13号機は「アダムスの生き残り」ですので、ここでいう「神」はアダムスから見た神、つまり「制作者」になると思われます。
なお、前述のとおり、旧劇場版のラストで新たな世界(新劇場版)の創造主となった「旧劇場版の初号機」も、制作者と同質の存在になったと考えますので、「旧劇場版の初号機」とほぼ同じ見た目の第13号機は「神と同じ姿」ということになるのだと考えます。
ゲンドウ「神に障壁はない。来るものを全て受け入れるだけだ」
シン・エヴァンゲリオン劇場版
ここでいう「神」は「制作者」そのものではなく、「制作者」と同じ情報を得たゲンドウ自身のことを指していると思われます。
ゲンドウ「私が神を殺し、神と人類を紡ぎ、使徒の贄をもって人類の神化と補完を完遂させる」
シン・エヴァンゲリオン劇場版
ゲンドウ「知恵の実を食した人類に神が与えていた運命は2つ。生命の実を与えられた使徒に滅ぼされるか、使徒を殲滅しその地位を奪い知恵を失い永遠に存在し続ける神の子と化すか、我々はどちらかを選ぶしかない。ネルフの人類補完計画は後者を選んだゼーレのアダムスを利用した神への儚いレジスタンスだが、果たすだけの価値のあるものだ」
リツコ「私達は神に屈した人類補完計画による絶望のリセットではなく希望のコンティニューを選びます」
ミサト「私は神の力をも克服する人間の知恵と意思を信じます」
シン・エヴァンゲリオン劇場版
シンジ「父さんは何がしたいの?」
ゲンドウ「このゴルゴダオブジェクトでしか起こしえないアディショナルインパクトだ。それが私の神殺しへの道へと繋がる。そのために最後の2本の槍をここに届けた」
シン・エヴァンゲリオン劇場版
真希波マリ「神が与えた希望の槍カシウスと絶望の槍ロンギヌス。それを失っても世界をありのままに戻したいという意志の力で作り上げた槍ガイウス。いえヴィレの槍。知恵と意志を持つ人類は神の手助けなしにここまで来てるよ。ユイさん」
シン・エヴァンゲリオン劇場版
シンジ「やっとわかった。父さんは母さんを見送りたかったんだね。それが父さんの願った神殺し」
シン・エヴァンゲリオン劇場版
ここでの「神殺し」は、「碇ユイを殺すこと」だと考えてしまいがちですが、上記のとおり、「神殺し」とは、物理的に殲滅するということではなく、神の理(ことわり)に従わないことを意味していると思われます。
つまり、ユイを殺すことそのものが「神殺し」なのではなく、リリスと同質の存在であるユイを殺すことは神の理に反することであり、神の理に反することが「神殺し」になるということです。
なお、ゲンドウの目的は、ループするエヴァ世界において、永遠に大役を続けるユイを開放してあげることだったと考えます。
第1使徒:渚カヲル
第1使徒であり、制作者が定めた円環の物語(エヴァ世界)の中で永遠に演じるナビゲーター、制作者の使者的存在であると思われます。制作者から「生命の書」も預けられています。
加持「渚とは海と陸のはざま。第1の使徒であり、第13の使徒となる人類のはざまを紡ぐ、あなたらしい名前だ」
シン・エヴァンゲリオン劇場版
このような立場であることから、不滅の存在であったり、エヴァ世界がループを繰り返しても記憶を維持していると考えます(制作者と同じくエヴァ世界を外側から俯瞰している。)。
カヲル「僕の存在を消せるのは真空崩壊だけだ。だから僕は定められた円環の物語の中で演じることを永遠に繰り返さなければならない」
シン・エヴァンゲリオン劇場版
劇中において、カヲルが「神」と呼ばれることはありませんでしたが、第2使徒リリスよりも上位の第1使徒ですので、冒頭の図のとおり、カヲルは制作者の次の位置づけに来ると考えます。
なお、主人公であるシンジへの無償の愛は、制作者の意思からきていると思われます。
熾天使:第2使徒リリス
アダムスと同じ熾天使であり、地球に堕ちた12枚の翼を持つ最強の堕天使ルシファーをモチーフにしていると考えます。地球の生命の祖、地球の神と呼べる存在ですので、冒頭の図のとおり、広義の神に位置付けられます。
リリスを指して「神」と呼ぶセリフ一覧
リツコ「人の枠にとどめておいたエヴァが本来の姿を取り戻していく。人の呪縛を解いて人を超えた神に近い存在へと変わっていく」
エヴァンゲリオン新劇場版:破
ニアサードインパクト時の初号機の覚醒(擬似シン化)についてのセリフです。
私は、初号機はリリスのコピー(クローン)と考察していますので、「本来の姿」「神」とはリリスのことであると考えます。
なお、新世紀版(テレビアニメ版、旧劇場版)と異なり、新劇場版のリリス(とアダムス)は、生命の実と知恵の実の両方を所持する存在であると考察しています。
リリスとアダムスが生命の実と知恵の実の両方を所持する存在であることの考察はこちら
熾天使:アダムス
アダムスは、「白き月」(衛星の月)で眠っており、本来地球に来る予定ではなかったと思われます。そのため、「使徒」とは呼ばれていません。
この点の考察はファーストインパクトにまで遡ります。
しかし、劇中ではアダムスも「神」と呼ばれていますので、冒頭の図のとおり、広義の神に位置付けられます。
なお、上記(リリス)のとおり、アダムスは、リリス同様、生命の実と知恵の実の両方を所持する存在であると考えています。
アダムスを指して「神」と呼ぶセリフ一覧
冬月「それがあのマーク6なのか。偽りの神ではなくついに本物の神を創ろうというわけか」
ゲンドウ「ああ初号機の覚醒を急がねばならん」
エヴァンゲリオン新劇場版:破
冬月「神の偽物ではなくついに本物の神を創ろうというわけか」
同シーン画コンテ
上記のセリフから、マーク6までのエヴァが神のコピーから造った「偽りの神」「神の偽物」であるのに対し、マーク6は神のオリジナルから造った「本物の神」であることが分かります。
私は、月面タブハベースにいたマーク6の素体となった巨人はアダムスの1体だと考察していますので、ここでいう「神」はアダムスを指していると考えます。
下位天使:使徒:制作者の使い
劇中で使徒が「神」と呼ばれることはありませんでした。
冒頭の図で示したとおり、使徒は、「神」ではなく、知恵の実(原罪)を持つ存在を滅ぼすための神(最高神)の使いであると考察しています。
ゲンドウ「単独で完結している純完全生物だ」
冬月「生命の実を食べた者達か」
ゲンドウ「知恵の実を食べた我々を滅ぼすための存在だ」
エヴァンゲリオン新劇場版:序