今回は、エヴァンゲリオンシリーズにおける使徒の正体と目的、新世紀版(テレビアニメ版、旧劇場版、コミック版)と新劇場版の比較、設定変更について考察します。
「使徒」の意味は「天使」angel
「使徒」とは、イエス・キリストの弟子達(12使徒)を指すことが一般的ですが、もともとは「神に遣わされた者」の意味であり、英語では「apostle」となります。
他方、エヴァンゲリオンの世界では、使徒の英語訳は「angel」とされています。
つまり、「天使」「天の使い」という意味になります。
これは、全エヴァンゲリオンシリーズにおいて共通です。
テレビアニメ版、旧劇場版の使徒
登場使徒一覧
- 第1使徒:アダム(アダム系第3~第17使徒の始祖)
- 第2使徒:リリス(第18使徒リリンの始祖)
- 第3使徒:サキエル(人型)
- 第4使徒:シャムシエル(ツチノコ?型)
- 第5使徒:ラミエル(ダイヤモンド型)
- 第6使徒:ガギエル(海洋生物型)
- 第7使徒:イスラフェル(2体で1体型)
- 第8使徒:サンダルフォン(浅間山火口マグマの中から発見)
- 第9使徒:マトリエル(クモ型)
- 第10使徒:サハクィエル(成層圏から落下攻撃)
- 第11使徒:イロウル(ウイルス型)
- 第12使徒:レリエル(ディラックの海を展開)
- 第13使徒:バルディエル(エヴァ3号機に浸食)
- 第14使徒:ゼルエル(初号機に捕食される。)
- 第15使徒:アラエル(宇宙から精神攻撃。ロンギヌスの槍で殲滅)
- 第16使徒:アルミサエル(ひも型。綾波レイに浸食)
- 第17使徒:タブリス(渚カヲル)
- 第18使徒:リリン(人類)
正体・目的・設定 アダム系VSリリス系
テレビアニメ版、旧劇場版では、まず、地球の南極に「生命の実」(S2機関)を得た第1使徒アダムの卵「白き月」が落下し、その後、「知恵の実」を得た第2使徒リリスの卵「黒き月」が箱根に落下しました(ファーストインパクト)。
アダムは、同じ「生命の実」を持つ第3~16使徒(+第17使徒※)を生み出し、リリスは同じ「知恵の実」を持つリリン(第18使徒)を生み出しました。
※ 第17使徒タブリス(渚カヲル)は、アダムから直接生み出されたわけではなく、男性人型使徒の肉体にアダムの魂が宿った特殊な使徒です。
テレビアニメ版、旧劇場版では、アダム系(生命の実系)とリリス系(知恵の実系)の使徒達による対立構造、生存競争のストーリーになっていました。
リリスもリリン(人類)も「使徒」ではありますが、リリスとリリンを滅ぼそうとする存在、アダムより生まれし使徒のことを、いわゆる「使徒」と呼んでいました。
ミサト「シンジ君。私たち人間もね、アダムと同じリリスと呼ばれる生命体の源から生まれた18番目の使徒なのよ。他の使徒達は別の可能性だったの。人の形を捨てた人類の。ただ、お互いを拒絶するしかなかった悲しい存在だったけどね。同じ人間同士も」
旧劇場版Air ネルフ本部がゼーレから攻撃を受け葛城ミサトが碇シンジを避難させるシーン
コミック漫画版
コミック版では、使徒が知恵の実を持つリリスとリリンを滅ぼそうとする存在であるという基本設定はテレビアニメ版、旧劇場版と同じですが、使徒の数が異なっています。
具体的には、上記の内、第8使徒:サンダルフォン、第9使徒:マトリエル、第11使徒:イロウル、第12使徒:レリエルの計4体が登場しませんでした。
ミサト「使徒達がジオフロントのリリスを目指したのは、失われたアダムの代わりにリリスと融合し、全ての種を滅ぼし、自らが新しい種としてこの星で生き残るためなのよ」
コミック第12巻 邂逅
新劇場版
登場使徒一覧
- 第1使徒:渚カヲル
- 第2使徒:リリス(リリン以外も含む地球の全生命の始祖)
- 第3使徒:永久凍土から発見され北極ベタニアベースで研究対象とされる。第3使徒の考察はこちら
- 第4使徒:人型(サキエル似)
- 第5使徒:ツチノコ?型(シャムシエル似)
- 第6使徒:ダイヤモンド型(ラミエル似)
- 第7使徒:時計?型
- 第8使徒:宇宙から落下攻撃(サハクィエル似)
- 第9使徒:エヴァ3号機に浸食(バルディエル似)第9使徒の考察はこちら
- 第10使徒:最強の拒絶タイプ(ゼルエル似)
- 第11使徒:劇中描写なし。第11使徒の考察はこちら
- 第12使徒:マーク6の中にいた。第12使徒の考察はこちら
- 第13使徒:渚カヲル
アダム系VSリリス系の対立構造ではない
上記のとおり、新世紀版では、アダム系(生命の実系)とリリス系(知恵の実系)の使徒達による対立構造、生存競争のストーリーでしたが、新劇場版においては、この設定が無くなっています。
上記一覧のとおり、新劇場版では、そもそもアダムがいません。
また、序における第6の使徒戦で、ミサトは、リリスについて、「この星の生命の始まりでもあり終息の要ともなる第2の使徒リリスよ。サードインパクトのトリガーとも言われているわ」と言っていました。
つまり、第2使徒リリスは、「リリンを産み出した存在」から、「地球の全生命の始祖」という設定に変わっています。
アダムスは使徒ではない
また、アダムの代わりに新劇場版から登場したアダムスも、使徒とは呼ばれていません。
つまり、アダムスは使徒ではないのです。
これは、アダムスが本来は地球に降り立つことを予定してなかったことを意味しているものと考えます。
新劇場版では、アダムスがいたと思われる「白き月」の設定が地球の衛星の「月」に変わっていることから(株式会社カラーの公式ツイッターから読み取れます。)、「白き月」は一度も地球に落ちていないものと思われます。
ファーストインパクトの設定から変わっているのです。この点は別途考察しています。
リリン(人類)も使徒ではない
上記一覧のとおり、新劇場版では、リリンも使徒ではなくなっています。
これも、アダム系(生命の実系)とリリス系(知恵の実系)の使徒達による対立構造、生存競争という設定が無くなったことに由来していると思われます。
新劇場版の使徒の設定と目的
では、新劇場版の使徒は、何のために存在し、何を目的にしているのでしょうか。
知恵の実を食した者を滅ぼすための神の使い
序で第4使徒が登場した際、碇ゲンドウと冬月コウゾウは、次のような会話をしていました。
ゲンドウ「単独で完結している純完全生物だ」
冬月「生命の実を食べた者達か」
ゲンドウ「知恵の実を食べた我々を滅ぼすための存在だ」
エヴァンゲリオン新劇場版:序
つまり、使徒は、「生命の実」を食しており、「知恵の実」を得た者を滅ぼすための存在であることが分かります。
これだけを見ると、新世紀版(旧劇場版、テレビアニメ版、漫画版)と何も変わっていないようにも思えます。
しかし、シンエヴァのAAAヴンダー甲板上におけるゲンドウの次のセリフを見ると、違いが分かってきます。
ゲンドウ「知恵の実を食した人類に神が与えていた運命は2つ。生命の実を与えられた使徒に滅ぼされるか、使徒を殲滅しその地位を奪い知恵を失い永遠に存在し続ける神の子と化すか、我々はどちらかを選ぶしかない。ネルフの人類補完計画は後者を選んだゼーレのアダムスを利用した神への儚いレジスタンスだが、果たすだけの価値のあるものだ」
シン・エヴァンゲリオン劇場版
つまり、新劇場版の使徒は、対立構造にある一方側の勢力(旧アダムより生まれし使徒)ではなく、「神の使い」として、「知恵の実」を得た者を滅ぼすための存在になっているのです(アダムス系かリリス系かを問わず、知恵の実を得た者であれば使徒から狙われる。)。
キリスト教における「原罪」、すなわち、アダムとイブが神の言いつけを破り、善悪を知る知識の木の実を食した罪をその子孫達も負っているという考え方がモチーフになっていると思われます。
新劇場版の使徒は、冒頭で述べた「angel」「天使」「神の使い」という、その意味通りの存在になったといえます。
この点に関連し、私は、新劇場版では、アダムスもリリスも共に知恵の実を食していると考えています。
インパクト(儀式)の贄
また、新劇場版の使徒は、インパクト(儀式)を起こすための贄(にえ)になるという役割を持っています。
こののことは、次のセリフから読み取ることができます。
碇シンジにサードインパクトの説明をしたカヲル「生命とは本来世界に合わせて自らを変えていく存在だからね。しかしリリンは自らでなく世界の方を変えていく。だから自らを人工的に進化させるための儀式を起こした。古の生命体を贄とし生命の実を与えた新たな生命体を作り出すためにね。全てが太古よりプログラムされていた絶滅行動だ。ネルフでは人類補完計画と呼んでいたよ」
エヴァンゲリオン新劇場版:Q
フォース(アナザー)インパクトの際のゲンドウ「私が神を殺し、神と人類を紡ぎ、使徒の贄をもって人類の神化と補完を完遂させる」
シン・エヴァンゲリオン劇場版