今回は、エヴァンゲリオンシリーズにおいて、なぜ磔(はりつけ)のリリスの胸にロンギヌスの槍が刺さっていたのかについて考察します。
新世紀版(旧作)
テレビアニメ版
槍は南極で回収されリリスの胸に
テレビアニメ版におけるリリスは、始めから胸にロンギヌスの槍が刺さっていたわけではありません。
まず、第12話において、ネルフ(碇ゲンドウと冬月コウゾウ)が南極へ行き、ロンギヌスの槍を回収しました。
第14話においては、回収されたロンギヌスの槍は、綾波レイが操縦する零号機によって、リリスのいるターミナルドグマへ運ばれました。
同シーンについて、ゲンドウは、「予定どおりだ。作業はレイが行っている」と言っていました。
「予定どおり」と言った以上、ロンギヌスの槍は、何らかの目的をもって南極で回収され、リリスのもとへ運ばれたことになります。
第22話においては、リリスのもとへ運ばれたロンギヌスの槍は、弐号機に対し衛星軌道上から心理攻撃を仕掛けてきた第15使徒アラエルを殲滅するために使用されました。
第15使徒アラエルに対し投擲して攻撃するため、レイの乗った零号機がターミナルドグマのリリスの所までロンギヌスの槍を取りにいきましたが、このとき、槍は磔(はりつけ)のリリスの胸に刺さっていました。
上記第14話のシーンでは、零号機がリリスの胸にロンギヌスの槍を刺すシーンまでは描写されませんでしたが、このときターミナルドグマへ行った零号機によって磔のリリスの胸に槍が刺されたと考えるのが自然です(コミック版第5巻では、零号機がリリスの胸に槍を刺すシーンまで明確に描写されています。)。
槍の回収と刺突はゼーレの指示
第23話において、ゲンドウは、第15使徒アラエル殲滅のためにロンギヌスの槍を使って回収困難にしたことについて(衛星軌道上まで投擲)、ゼーレから厳しく追及されました。
ここから、ロンギヌスの槍を南極から回収し、リリスの胸に突き刺したのが、ゼーレの指示だったことが伺われます。
槍は全使徒殲滅後の約束の時のため
第23話において、ひも型の第16使徒アルミサエルを殲滅した後、ゼーレは、次のように述べていました。
「ついに第16の使徒までを倒した」
「これでゼーレの死海文書に記述されている使徒はあと1つ」
キール「約束の時は近い。その道のりは長く犠牲も大きかったな」
「左様。ロンギヌスの槍に続き、エヴァ零号機の損失」
「碇の解任には十分すぎる理由だな」
テレビアニメ版 第23話
つまり、裏死海文書によれば、第17使徒までの全ての使徒を殲滅した後、「約束の時」が来るということになります。
ここまでをまとめると、ネルフは、ゼーレの指示により、全ての使徒を殲滅した後の「約束の時」に備え、南極からロンギヌスの槍を回収し、リリスの胸に刺したのだと考えることができます。ただし、ゼーレの指示に反して、上記のとおりゲンドウがロンギヌスの槍を使ったため、ゼーレの怒りを買うことになりました。
旧劇場版:ロンギヌスの槍の効果
旧劇場版DEATH(TRUE)2では、ロンギヌスの槍が抜かれた後、リリスの下半身が再生する描写がされました。
つまり、ロンギヌスの槍は、刺すことによって、対象の再生を遅らせる(又は止める)ことができると思われます。
ここから、ゼーレは、槍を刺すことで、リリスの再生を遅らせていた(止めていた)と考えることができます。
コミック漫画版:槍を刺した理由・目的
テレビアニメ版、旧劇場版の描写だけでは、ロンギヌスの槍をリリスの胸に刺した理由や目的がいまいちはっきりしないため、コミック版についても参照する必要があります。
コミック版におけるストーリーは、テレビアニメ版、旧劇場版と似たような展開でしたが、セリフが若干異なっています。
第5巻において、ネルフ(ゲンドウと冬月)が南極にロンギヌスの槍を回収しに行った際、ゲンドウは、次のとおり重要なセリフを述べていました。
ゲンドウ「だがこの槍を手に入れたことにより、我々人類は、約束の時まで少しばかりの時間の猶予を手に入れたことになる」
コミック第5巻
つまり、ロンギヌスの槍の回収は、「約束の時」までの時間稼ぎが目的だったということです。
旧作まとめ
ここで、新世紀版(テレビアニメ版、旧劇場版、コミック版)をまとめます。
「約束の時」とは、リリスとの約束の時であり、新劇場版の「契約の時」に対応している、つまりサードインパクトの発動を指していると思われます。
裏死海文書によれば、「約束の時」を迎えるには、リリスが復活するまでに全ての使徒を殲滅しておく必要があります。
ロンギヌスの槍には、リリスの再生(復活)を遅らせる効果がありました。
以上をまとめると、ゼーレは、裏死海文書に従い、リリスが復活して「約束の時」(サードインパクト)を迎えるまでに、全ての使徒を殲滅しておく必要があったため、リリスの再生(復活)を遅らせて時間を稼ぐ目的で、ネルフに指示をして、南極からロンギヌスの槍を回収し、磔(はりつけ)のリリスの胸に刺したということになります。
なお、このように考えると、テレビアニメ版第22話において、ゲンドウが、ロンギヌスの槍を第15使徒殲滅のために使う際、「時計の針は元には戻らない。だが自らの手で進めることはできる」と言っていた意味も理解できます。
ゲンドウの当該セリフは、リリスから槍を抜くことで、その復活を早め、ゼーレを出し抜いて自らがリリスと融合しようとしていたことを示すセリフだったものと思われます。
新劇場版
始めからリリスの胸に刺さっていた
新劇場版において、リリスが初めて登場したのは、序の、ダイヤモンドのような第6使徒戦です。
葛城ミサトが、碇シンジに対し、初号機に乗るように説得するため、セントラルドグマへ連れて行き、リリスの姿を見せたときです。
このとき、磔(はりつけ)にされたリリスの胸には、既にロンギヌスの槍が刺さっていました。
上記のとおり、旧作では、ストーリーの途中でリリスの胸に槍が刺されたのに対し、新劇場版では、ストーリーの始めから槍が刺さっていた点で異なっています。
関係するセリフ
しかし、槍が刺さるまでのタイミングに違いはあるものの、次の各セリフから、新劇場版においても、リリスの胸に槍が刺された理由・目的は類似していると思われます。
第4使徒殲滅後のゼーレモノリス06「使徒殲滅はリリスとの契約のごく一部にすぎん」
第6使徒戦におけるゲンドウ「いかなる手段を用いても我々はあと8体の使徒を倒さねばならん」
ラスト月面のゼーレモノリス01「死海文書外典は掟の書(おきてのしょ)へと行を移した。契約の時は近い」
エヴァンゲリオン新劇場版:序
4号機消滅後のゼーレモノリス01「我らの望む真のエヴァンゲリオン。その誕生とリリスの復活をもって契約の時となる。それまでに必要な儀式は執り行わねばならん。人類補完計画のために」
エヴァンゲリオン新劇場版:破
第13号機完成前のゲンドウ「最後の契約の時が来る。もうすぐ会えるなユイ」
エヴァンゲリオン新劇場版:Q
旧作との類似点
「契約の時」とは、リリスとの契約の時であり、旧作の「約束の時」に対応している、つまりインパクトの発動を指していると思われます。
「契約の時」を迎えるには、リリスが復活するまでに10体の使徒を殲滅しておく必要があります。この点も旧作と類似しています。
そして、シンエヴァの、ヤマト作戦前におけるミサトのサードインパクト回想シーンでは、槍が抜かれたリリスの下半身がやはり再生していましたので、新劇場版のロンギヌスの槍も、旧作同様、リリスの再生(復活)を遅らせる効果があったと考えることができます。
目的・理由は旧作とほぼ同様
以上をまとめると、新劇場版においても、リリスが復活し「契約の時」(インパクト)を迎えるまでに、10体の使徒を殲滅しておく必要があったため、リリスの再生(復活)を遅らせて時間を稼ぐ目的で、磔(はりつけ)のリリスの胸にロンギヌスの槍を刺していたということになります。
槍を刺したのは白レイ(白波)
新劇場版において、リリスの胸に槍を刺したのは、新世紀版同様、綾波レイ(白レイ)であり、セカンドインパクト後に刺したと考えます。
この点に関し、セカンドインパクトでは、次のようなことが起きたと考察しています。
- 5体のアダムスと5本の槍が投入され、パイロットとして5人の(初代)アドヴァンスド綾波シリーズが搭乗していた。
- この内、4体のアダムスがトリガーとなり、(初代)アドバンスド綾波シリーズの4人が贄(にえ)となった。
- 槍は4本消費され、1本が温存された。
- 残り1体のアダムス(後の第13号機の素体となった「アダムスの生き残り」)と、そのパイロットだった綾波シリーズは生き残った。
- 生き残った綾波シリーズは、白レイ(白波)である。
以上を前提に、生き残った白レイは、零号機又は「アダムスの生き残り」によって、ネルフ本部地下のセントラルドグマ最深部で磔(はりつけ)になっていたリリスの胸に、温存された1本の槍を刺したと考えます。
捕捉:リリスとコミュニケーションは不可
以上を前提にすると、リリスは、リリン(人類)とコミュニケーションがとれない(あるいはとらない)ことが分かります。
先にリリスを復活させ、「まだ全ての使徒を殲滅していないのでもう少し待っていて下さい」というわけにはいかなかったようです。
そのため、ゼーレは、死海文書の記述に従い、リリスが復活するまでに何としても全ての使徒を殲滅しておく必要があったというわけです。