今回は、エヴァンゲリオン新劇場版における、ロンギヌスの槍、カシウスの槍、ガイウスの槍についてそれぞれ考察します。
6本の聖なる槍
シンエヴァのゴルゴダオブジェクトにおいて、碇ゲンドウにより、神の世界であるゴルゴダオブジェクトに6本の槍があったことが説明されました。
ゲンドウ「ゴルゴダオブジェクトだ。人ではない何者かがアダムスと6本の槍とともに神の世界をここに残した」
シン・エヴァンゲリオン劇場版
絶望のロンギヌス、希望のカシウス
シンエヴァの、エヴァンゲリオンイマジナリーにAAAヴンダーが突進するシーンにおいて、真希波マリが「神が与えた希望の槍カシウスと絶望の槍ロンギヌス」と言っていたことから、6本の聖なる槍には、絶望の槍ロンギヌスと希望の槍カシウスという、対となる2種類があることが分かります。
ロンギヌスは先が二股に尖った形状で、カシウスは先が平たい刃のような形状をしています。
なお、新世紀版(テレビアニメ版、旧劇場版)では、ロンギヌスの槍しか登場しませんでした。
持ち手の意思よって形状が変わる
6本の聖なる槍は、持ち手の意思によってロンギヌス、カシウスのいずれかの槍になるようです。
このことは、シンエヴァの、初号機と第13号機の対決シーンにおいて、初号機が第13号機から槍を奪った際、ロンギヌスの形状からカシウスの形状に代わり、ゲンドウが、「ほう。希望の槍カシウスと変わるか」と言っていたことから分かります。
聖なる槍の元ネタ

上記画像 聖槍 – Wikipedia
ゴルゴダの丘で磔(はりつけ)にされたイエス・キリストが死亡したことを確認するため、その脇腹を槍で刺したとされています。
この槍を刺したローマ兵の名が「ロンギヌス」であったことから、イエス・キリストの脇腹を刺した槍は、「ロンギヌスの槍」と呼ばれているようです。
これがエヴァ世界におけるロンギヌスの槍の元ネタであると思われます。
また、全く別人として、カエサルの暗殺首謀者の「ガイウス・カシウス・ロンギヌス」という歴史上の人物がいますが、同じ「ロンギヌス」繋がりで、当該人物の名前から「カシウスの槍」「ガイウスの槍」というネーミングに繋がったのではないかと思われます。
聖槍の用途・効果
インパクト(儀式)の完成要素
聖なる槍は、完全なインパクトを起こす際に必要となります。
インパクト(儀式)のトリガーとなる存在(神と呼ばれる存在)が使徒の贄を得て覚醒するとインパクトが発動しますが、このときに槍があると完全な儀式となります。
ただし、槍がなくても儀式を開始することはできるようです(儀式発動の必須条件ではない。)。 ニアサードインパクトについては、槍がない状態で発動したため、不完全な形となりました。
インパクト(儀式)の中止
聖なる槍には、インパクトのトリガーとなる存在(神と呼ばれる存在)のATフィールドをも突き破り、その活動と再生を停止させ、インパクトを中止させる効果があります。
シンエヴァで、マイナス宇宙に碇シンジを見送った葛城ミサトは、「槍を全て使うとシンジ君が(アディショナルインパクトの)発動を止める術も失ってしまうか」と言っていました。
世界・運命を書き換えるペン
聖なる槍は、上記のように、インパクトの完成と中止の鍵となるアイテムですが、その他にも、エヴァ世界や運命を書き換えるペンともいえる効果もあります。
実際のロンギヌスの槍が、別名「運命の槍」(Spear of destiny)と呼ばれていることに関係していそうです。
絶望のロンギヌスと希望のカシウス、対となる2本の槍がエヴァンゲリオンイマジナリーに突き刺さると、アディショナルインパクトが発生し、世界のリセット、書き換えが行われます。
ところで、エヴァンゲリオンイマジナリーは、アニメによって虚構(フィクション)と現実を同一化できる存在であることから、エヴァ世界の創造者、つまり「制作者」であると考察しています。
そうだとすれば、エヴァンゲリオンイマジナリーと、世界の書き換えに必要な聖なる槍とは、「制作者」と「ペン」という関係にあると考えられます。
第13号機にシンジを乗せるようと説得する渚カヲル「君の希望はドグマの爆心地に残る2本の槍だけだ。それが補完計画発動のキーとなっている。僕らでその槍を手にすればいい。そうすればネルフもフォースインパクトを起こせなくなるし、第13号機とセットで使えば世界の修復も可能だ」
セントラルドグマでの渚カヲル「カシウスとロンギヌス。対の槍が必要なんだ。なのにここには同じ槍が2本あるだけ」
エヴァンゲリオン新劇場版:Q
ゲンドウ「絶望と希望の槍が互いにトリガーと贄となり、虚構と現実が溶け合い全てが同一の情報と化す。これで自分の認識、すなわち、世界を書き換えるアディショナルインパクトが始まる。私の願いが叶う唯一の方法だ」
シン・エヴァンゲリオン劇場版 アディショナルインパクト
劇中における聖槍の使われ方
上記のとおり、聖なる槍は、まず、神の世界であるゴルゴダオブジェクトに6本ありました。
セカンドインパクト:4本消滅
セカンドインパクトでは、5本の槍が使用され、その内4本が消滅しました。
具体的には、次のようなことが起きたと考察しています。
- 5体のアダムスと5本の槍が投入され、パイロットとして5人の(初代)アドヴァンスド綾波シリーズが搭乗していた。
- この内、4体のアダムスがトリガーとなり、パイロットの4人が贄(にえ)となった。
- 槍は4本消費され、1本が温存された。
- 残り1体のアダムス(後の第13号機の素体となった「アダムスの生き残り」)と、そのパイロットだった綾波シリーズは生き残った。
- 生き残った綾波シリーズは、白レイ(白波)である。
1本は磔のリリスの胸に刺された
新劇場版において、リリスが初めて登場したのは、序の、ダイヤモンドのような第6使徒戦です。
ミサトが、シンジに対し、初号機に乗るように説得するため、セントラルドグマへ連れて行き、リリスの姿を見せたときです。
このとき、リリスの胸には、既にロンギヌスの槍が刺さっていました。
この槍は、セカンドインパクトで温存された1本の槍であると考えます。
セカンドインパクトを生き残った白レイは、零号機又は「アダムスの生き残り」によって、ネルフ本部地下のセントラルドグマ最深部で磔(はりつけ)になっていたリリスの胸に、温存された1本の槍を刺したと考察しています。
ニアサードインパクト:カシウスで中止
以上のとおり、最初にあった6本の聖なる槍の内、4本はセカンドインパクトで消滅し、1本は磔のリリスの胸に刺されました。
残りの1本は、マーク6の素体となった白い巨人とともに、月面タブハベースにありました。
この槍は、破ラストのニアサードインパクトで、カヲルが搭乗するマーク6によって投擲され(カシウスとして)、トリガーとなった初号機のコアを貫き、ニアサードインパクトを止めるために使用されました。
サードインパクト
劇中では、サードインパクトにおける槍使用の直接的な描写はありませんでしたが、Qにおける爆心地跡(セントラルドグマ)では、リリスの骸とそれに融合したマーク6にそれぞれ1本ずつ槍が刺されていました。
この2本は、サードインパクトを止めるために投擲されたものと思われます。
磔のリリスの胸に刺さっていた槍(ロンギヌス)と、ニアサードインパクト中止のために初号機コアに刺された槍(カシウス)が再利用されたと考えられます。
なお、サードインパクト中止のための2本の槍は、改2号機と8号機が使用したと考えますが、この点については後述します。
(ニア)フォースインパクト
Qラストの(ニア)フォースインパクトは、サードインパクトを止めるために使用された2本の槍を再利用し(いずれもロンギヌスとして)、第13号機によって起こされました。
しかし、搭乗していたカヲルの意思により、持っていた2本の槍で自らを刺し、(ニア)フォースインパクトを止めるためにも使用されました。
フォース(アナザー)インパクト:黒き月の槍
シンエヴァにおけるフォース(アナザー)インパクトの時点では、まだ(ニア)フォースインパクトで使用された2本の槍が残っていました。
しかし、ゲンドウと冬月は、この2本の槍をアディショナルインパクトで使うために温存し、代わりに、黒き月を材料にして、NHGネルフ戦艦の「言霊」の力によって槍を新造し、当該槍を使ってフォース(アナザー)インパクトを起こしました。
冬月コウゾウ「人工的なリリスの再現。そして黒き月の槍への強制流用。舞台は整えた。後の大詰めをどう演じる?碇」
北上ミドリ「アナザーインパクトまで無理やり起こして、あの男は何がしたいんですか?」
赤木リツコ「アナザーの目的として考えられるのはただ1つ。フォース用に槍を新造し、アディショナルのために2本の槍を最後まで温存したのよ」
シン・エヴァンゲリオン劇場版
アディショナルインパクト:最後の2本
ゲンドウは、ゴルゴダオブジェクトへ行き、温存しておいた最後の2本の槍を使い、アディショナルインパクトを起こしました。
シンジ「父さんはここで何がしたいの?」
ゲンドウ「このゴルゴダオブジェクトでしか起こしえないアディショナルインパクトだ。それが私の神殺しへの道へと繋がる。そのために最後の2本の槍をここに届けた」
シン・エヴァンゲリオン劇場版
以上により、ゴルゴダオブジェクトにあった6本の聖なる槍は、全て消滅しました。
槍1本につき1つの魂が必要
聖なる槍を扱うには、魂が必要とされています。
また、槍自体が非常に巨大なので、アダムスやエヴァなどでないと物理的に取り扱うことは困難です。
新劇場版における通常のエヴァには魂が宿っていませんので、パイロットがエヴァの魂の役目を果たします。
第13号機は槍を2本持つことができましたが、それは第13号機がダブルエントリーシステムを採用し、2人のパイロットの2つの魂があったためです。
以上のことは、Qにおけるカヲルとシンジの次の会話から分かります。
カヲル「そう。ロンギヌスとカシウス。2本の槍を持ち帰るには魂が2つ必要なんだ。そのためのダブルエントリーシステムさ」
シンジ「それなら、あっちのパイロットでもいいんじゃないの?」
カヲル「いや、リリンの模造品では無理だ。魂の場所が違うからね」
エヴァンゲリオン新劇場版:Q セントラルドグマ
リリンの模造品(クローン)に槍は扱えない?
ところで、上記の会話によれば、「リリンの模造品」(黒レイのこと)は「魂の場所が違う」ため、槍を扱うことができないようです。
「リリンの模造品」とは、リリン(人類)のコピー(クローン)を指していると思われます。
そうすると、黒レイの他、同じクローンである式波アスカやマリも槍を扱えないのかという疑問が生じますが、そうではないと考えます。
上記のとおり、サードインパクトを中止するため、リリスとマーク6にそれぞれ1本、計2本の槍が刺されましたが、この時点において、槍を刺すことができたのは、次のとおり、改2号機(アスカ)と8号機(マリ)しかあり得ないからです。
- 零号機:第10使徒に捕食されていた。
- 初号機:シンジはサードインパクトのことを全く知らなかったため、サードインパクト時、初号機は既に封印柩に入れられ宇宙へ飛ばされていたと思われる。
- 3号機:初号機によって殲滅されていた。
- 4号機:北米ネルフ第2支部で爆発消滅していた。
- 仮設5号機:第3使徒戦で自爆消滅していた。
- マーク7:そもそも完成していたか不明。また、自律量産型でパイロット(魂)がいない。
- マーク9:そもそも完成していたか不明。また、黒レイでは槍を扱えない。
そうすると、カヲルが「リリンの模造品では無理だ」と言ったのは、「リリンの模造品全員が槍を扱えない」という意味ではなく、当時名前のなかった黒レイ(アヤナミレイ仮称)のことを指す言葉として「リリンの模造品」と言ったにすぎないと考えます。
黒レイ(黒波)が槍を扱えない理由
では、黒レイは、なぜ槍を扱うことができなかったのでしょうか。
カヲルは、その理由について、「魂の場所が違うからね」と説明していました。このセリフをそのまま読むと、黒レイには魂が入っていないように読めてしまい、意味が分かりません。
しかし、このセリフは、英語訳では「The seat of the soul is in a different place.」となっています。
「The seat of the soul」は、「魂の座」と訳しますので、「魂の座が違う場所にある」という意味になります。
「魂の座」という言葉は、テレビアニメ版第14話「ゼーレ、魂の座」で使われていました。
同話では、レイが、「私にあるものは命、心。心の入れ物エントリープラグ。それは魂の座」と言っていました。「魂の座」は、エントリープラグのことを指すようです。
つまり、マーク9には黒レイが搭乗していましたが、真のエントリープラグは、別の場所にあったということだと思われます。
マーク9がマーク6の首を切り落とし、中から出てきた第12使徒が第13号機を取り込もうとした際、マーク9のエントリープラグ内には、ゼーレのマークが浮かび上がっていました。
また、Qの、冬月がシンジと将棋を打つシーンの画コンテ863において、冬月は、黒レイについて、「あの複製体はゼーレのプログラムで動いている。我々の関知しないところだ」と言うことになっていました。
黒レイは、ゼーレのプログラムで動いており、マーク9を動かすためにパイロットにはなっていたものの、独自の意思を持っておらず、ゼーレの操り人形のような存在だったのだと思われます。
上記のとおり、聖なる槍は、持ち手の意思によってロンギヌスにもカシウスにも変わります。
独自の意思を持たない黒レイには、槍を扱うことができなかったのではないでしょうか。
カヲルが言った「魂の場所が違うからね」の意味は、マーク9の魂の座、真のエントリープラグは、ゼーレが握っており、黒レイには意思がないということを表していたと考えます。
ガイウス(ヴィレ)の槍
最後に、ガイウスの槍(ヴィレの槍)について解説します。
同じ槍でも、ガイウスは、ロンギヌス・カシウスとは、その性質が全く異なります。
ロンギヌス・カシウスは、神が与えた聖なる槍であり、神が定めた枠組みの中の槍です。
これに対し、ガイウスは、神の理(ことわり)、枠組みによらない、人の意志によって新たに作り出した槍です。
神の枠組みによってリセットとループを繰り返してきたエヴァ世界を終わらせ、新たな世界を創造するネオンジェネシスを起こすために生み出され、使用されました。
ミサト「本艦がヴーセとして乗っ取られていたとき、艦体は黒き月をマテリアルとして見知らぬ槍を生成していた。ならばこの艦を使って新たな槍を私達で作り出せるはず。ヴンダーに人の意思が宿れば更なる奇跡もあり得るわ。リツコの知恵とヴィレとヴンダーの言霊を私は信じる」
マリ「神が与えた希望の槍カシウスと絶望の槍ロンギヌス。それを失っても、世界をありのままに戻したいという意志の力で作り上げた槍ガイウス。いえヴィレの槍。知恵と意志を持つ人類は、神の手助けなしにここまで来てるよ。ユイさん」
ゲンドウ「バカな。聖なる槍は全て失っている。世界を書き換える新たな槍はあり得ないはずだ」
シンジ「僕もエヴァに乗らない生き方を選ぶよ。時間も世界も戻さない。ただ、エヴァがなくてもいい世界に書き換えるだけだ。新しい、人が生きていける世界に」
シン・エヴァンゲリオン劇場版