アディショナルインパクトとは 原因、目的、条件、内容

 今回は、シン・エヴァンゲリオン劇場版において発生した、アディショナルインパクトの目的、方術、発生条件、内容、結果、「諦観された神殺し」の意味等について考察します。

アディショナルインパクト

アディショナルインパクトの概要

 碇ゲンドウがフォースインパクトを「最後の儀式」と言っていたように、ゼーレの人類補完計画では、セカンドインパクトからフォースインパクトまでしか発生させる予定がありませんでした。

 人類補完計画の考察はこちら

 ゲンドウ「そうだ。セカンドインパクトによる海の浄化。サードによる大地の浄化。そしてフォースによる魂の浄化。エヴァインフィニティを形作るコアとは魂の物質化。人類という種の器を捨てその集合知をけがれなき楽園へといざなう最後の儀式だ」

 ゲンドウ「知恵の実を食した人類に神が与えていた運命は2つ。生命の実を与えられた使徒に滅ぼされるか、使徒を殲滅しその地位を奪い知恵を失い永遠に存在し続ける神の子と化すか、我々はどちらかを選ぶしかない。ネルフの人類補完計画は後者を選んだゼーレのアダムスを利用した神への儚いレジスタンスだが、果たすだけの価値のあるものだ」

シン・エヴァンゲリオン劇場版 AAAヴンダー甲板上

 ファーストインパクトの考察はこちら

 セカンドインパクトの考察はこちら

 サードインパクトの考察はこちら

 フォース(アナザー)インパクトの考察はこちら

 アディショナル「additional」とは、「追加の」「付加的な」という意味です。

 つまり、上記ゼーレの人類補完計画にはなかった、追加のインパクト(儀式)が、アディショナルインパクトです。

 内容を一言で言うと、アディショナルインパクトとは、エヴァ世界の創造主である「制作者」へアクセスし、エヴァ世界の書き換えを行うための儀式であると考えています(詳細は後述)。

方術、発生条件:通常と異なる

 続いて、アディショナルインパクトの方術、発生条件について見ていきます。

通常のインパクトの方術

 通常のインパクト(儀式)には、次の要素が必要です。

  •  トリガー(儀式の主体、覚醒したエヴァ等)
  •  光の翼の発生
  •  使徒の贄(にえ)
  •  聖なる槍(ただし、必須条件ではなく、儀式の完成要素)

 トリガーと贄の考察はこちら

 ロンギヌス、カシウス、ガイウスの槍の考察はこちら

アディショナルインパクトの方術

 これに対し、アディショナルインパクトの方術は、特別なものになっています。

 まず、場所的な条件として、ゴルゴダオブジェクトに行く必要があります。

 シンジ「父さんは何がしたいの?」

 ゲンドウ「このゴルゴダオブジェクトでしか起こしえない、アディショナルインパクトだ。それが私の神殺しへの道へと繋がる。そのために最後の2本の槍をここに届けた」

シン・エヴァンゲリオン劇場版 ゴルゴダオブジェクト

 次に、絶望の槍ロンギヌスと、希望の槍カシウスが、互いにトリガーと贄になって発生させます。

 ゲンドウ「絶望と希望の槍が、互いにトリガーと贄となり、虚構と現実が溶け合い、全てが同一の情報と化す。これで自分の認識、すなわち、世界を書き換えるアディショナルインパクトが始まる。私の願いが叶う、唯一の方法だ」

シン・エヴァンゲリオン劇場版 アディショナルインパクト

 なお、Qで第13使徒に堕とされたカオルも、シンジと共にこのアディショナルインパクトと同じ現象を起こそうとしていたと考察しています。

 カヲルが第13使徒に堕とされた考察はこちら

2本の槍を温存する必要があった

 上記のとおり、アディショナルインパクトを起こすには、2本の槍の存在が必須条件になります。

 そのため、ゲンドウは、フォースインパクトで最後の2本の槍を消費しないで温存するため、黒き月をマテリアルにして2本の槍を新造し、通常とは異なる方術によって、フォースインパクトと同様の儀式を行いました。これがアナザーインパクトです。

 北上ミドリ「アナザーインパクトまで無理やり起こして、あの男は何がしたいんですか?」

 赤木リツコ「アナザーの目的として考えられるのはただ1つ。フォース用に槍を新造し、アディショナルのために2本の槍を最後まで温存したのよ。おそらく、たった1つの願いのために」

 北上ミドリ「バカらしい。ただのエゴじゃん」

 ゲンドウ「もうすぐ会えるな、ユイ」

シン・エヴァンゲリオン劇場版 ゴルゴダオブジェクト到達直前

アディショナルインパクトの目的

 アディショナルインパクトは、ゲンドウが起こしました。

 ゲンドウは、どのような目的でアディショナルインパクトを発生させたのでしょうか。

ゲンドウの神殺しとは

 ゲンドウは、自分の「神殺し」を行うためにアディショナルインパクトを起こしました。

 シンジ「父さんは何がしたいの?」

 ゲンドウ「このゴルゴダオブジェクトでしか起こしえない、アディショナルインパクトだ。それが私の神殺しへの道へと繋がる。そのために最後の2本の槍をここに届けた」

シン・エヴァンゲリオン劇場版 ゴルゴダオブジェクト

 では、「神殺し」とは、何を意味するのでしょうか。

 エヴァにおいて、「神」という言葉は様々な意味で使われていますが、ここでいう「神」は、最高神であるアニメ制作者(創造主)を指しており、「神殺し」とは、物理的に殲滅するということではなく(それは不可能)、神の理(ことわり)に従わないことを意味していると考察しています。

 「神」の多義的意味、「神殺し」の考察はこちら

世界を書き換えること

 では、ゲンドウの「神殺し」は、具体的に何をして、どのように「神の理に従わない」ものだったのでしょうか。

 アディショナルインパクトは、ゴルゴダオブジェクトにおいて、エヴァンゲリオンイマジナリーの胸に2本の槍が刺さることで発生しました。

 そして、ゴルゴダオブジェクトは、まるで特撮映画の制作スタジオのような場所でした。

 その制作スタジオのような場所にいて、「虚構」(フィクション)と「現実」を同一化できるエヴァンゲリオンイマジナリーの正体は、エヴァ世界を創造した存在、つまりアニメ制作者であると考察しています。

 ゴルゴダオブジェクトとエヴァイマジナリーの考察はこちら

 ゲンドウ「絶望と希望の槍が、互いにトリガーと贄となり、虚構と現実が溶け合い、全てが同一の情報と化す。これで自分の認識、すなわち、世界を書き換えるアディショナルインパクトが始まる。私の願いが叶う、唯一の方法だ

シン・エヴァンゲリオン劇場版 アディショナルインパクト

 エヴァ世界(アニメの中)のキャラクター達にとってはエヴァ世界が「現実」ですので、制作者にアクセスすることで、制作者が創造する「虚構」(フィクション)をエヴァ世界で「現実」化できるというのが、アディショナルインパクトの本質だったと考えます。

 ゲンドウは、アディショナルインパクトによって制作者にアクセスすることで、自らが望むエヴァ世界への書き換えをしようとしたのだと思われます。

ユイと再会し見送ること

 では、ゲンドウは、エヴァ世界をどのように書き換えようとしたのでしょうか。

 ネオンジェネシスにおいて、ユイとゲンドウが心中する際、シンジは、ユイを見送ることがゲンドウの「神殺し」なのだと言いました。

 シンジ「やっとわかった。父さんは母さんを見送りたかったんだね。それが父さんの願った神殺し

シン・エヴァンゲリオン劇場版 ネオンジェネシス

 上記のとおり、「神殺し」とは、神の理に従わないことを意味するものと考えていますが、ゲンドウは、ループするエヴァ世界において、永遠に大役を続けていたユイを殺してあげることで「神殺し」を達成しようとしていたと考えます。

 ユイの正体の考察はこちら

 エヴァ世界のループの考察はこちら

諦観された神殺しの意味とは

 ところで、Qの(ニア)フォースインパクトの際、ゲンドウは、ゼーレに対し、次のように言っていました。

 ゲンドウ「死をもってあなた方の魂をあるべきところに返しましょう。宿願たる人類補完計画と、諦観された神殺しは、私が行います。ご安心を」

エヴァンゲリオン新劇場版:Q ゼーレとの最後の会話

 「諦観」(ていかん)とは、本質を見極めること、あきらめることの意味がありますが、ここでは後者の意味で使用されていると思われます。

 ゼーレは「神殺し」(上記のとおり、神の理に従わないこと)をあきらめ、それをゲンドウが引き継ぐということだと思われますが、どのような意味なのでしょうか。

 上記のとおり、アディショナルインパクトの本質は、エヴァ世界の制作者であるエヴァンゲリオンイマジナリーへアクセスして世界の書き換えを行うことだと考えます。

 しかし、エヴァンゲリオンイマジナリーは、虚構(フィクション)と現実を等しく信じる生き物である人類(リリン)だけが認知できる設定のようです。

 シンジ「これは…黒いリリス?」

 ゲンドウ「お前の記憶ではそう映るのか。エヴァンゲリオンイマジナリー。葛城博士が予測した現世には存在しない想像上の架空のエヴァだ。虚構と現実を等しく信じる生き物、人類だけが認知できる

シン・エヴァンゲリオン劇場版 アディショナルインパクト

 この点に関し、ゼーレは、人類(リリン)ではなく、人外未知の科学力をもった地球外生命体であると考察しています。

 ゼーレの考察はこちら

 つまり、ゼーレは、「神殺し」を考えてはいたものの、人類(リリン)でないことから、架空の存在であるエヴァンゲリオンイマジナリーを認知できないため、諦観せざるを得なかったのだと考えます。

 そのため、神が与えた2択の内から1つを選択するしかない、「儚いレジスタンス」だと表現されたのだと思われます。

 ゲンドウ「知恵の実を食した人類に神が与えていた運命は2つ。生命の実を与えられた使徒に滅ぼされるか、使徒を殲滅しその地位を奪い知恵を失い永遠に存在し続ける神の子と化すか、我々はどちらかを選ぶしかない。ネルフの人類補完計画は後者を選んだゼーレのアダムスを利用した神への儚いレジスタンスだが、果たすだけの価値のあるものだ」

シン・エヴァンゲリオン劇場版 AAAヴンダー甲板上

アディショナルインパクトの内容、結果

 アディショナルインパクトは、見ていても何が起きているのか分かり難いものになっています。

 まず、マイナス宇宙からエヴァンゲリオンイマジナリー(リアルなタッチの綾波顔)が現れると、それまで首無し初号機の姿をしていたエヴァインフィニティ達が、白い首無しの女体姿に変わりました。

 その後、真希波マリは、次のように発言しました。

 マリ「しっかし、人類のフィジカルとメンタル、両方の補完を同時に発動させるとはまあ、ゲンドウ君、君は…」

シン・エヴァンゲリオン劇場版 3隻のNHG艦撃墜後

 上記セリフの後、ゲンドウ、アスカ、カヲル、レイのそれぞれの補完(内面宇宙、精神世界における心の補完、統合)シーンが始まります。

 ゼーレの人類補完計画は、エヴァインフィニティと同化し、永遠に生き続ける神の子と化すことが目的であり、肉体、フィジカル、ハード面の補完でした。

 エヴァインフィニティの姿の考察はこちら

 それが、アディショナルインパクトが起こされたことによって、内面、メンタル、ソフト面の補完についても行われました。

 エヴァインフィニティが女体化したのは、人類のフィジカル面だけでなく、メンタル面についての補完も行われたことを示す描写だったのだと思われます。

 上記マリのセリフは、フィジカルの補完を完成させるフォース(アナザー)インパクトと、メンタルの補完を行うアディショナルインパクトを続けて発生させたゲンドウの執念への驚きを示すものだったと考えます。

 テレビアニメ版のラストは、キャラクター達の内面宇宙、精神世界の描写のみでした。そして、最終会の第26話では、シンジの心の補完が行われました。

 これに対し、旧劇場版(まごころを、君に)では、テレビアニメ版では描かれなかったサードインパクトの結末が描かれ、心の中よりも、物質的な出来事を中心に描写されました。

 つまり、テレビアニメ版でメンタル面、旧劇場版でフィジカル面が描かれたわけですが、シンエヴァでは、メンタル、フィジカルの2つを同時に描写したことになります。シンエヴァが、エヴァの物語の集大成であることがよく分かる展開でした。

 そして、アディショナルインパクトは、ネオンジェネシスへと続きました。

 ネオンジェネシスの考察はこちら

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