今回は、エヴァンゲリオン新劇場版における、碇(旧姓:綾波)ユイの正体について考察します。
新劇場版の世界において、碇ユイはどのような存在だったのでしょうか。
結論:ユイ=神=リリス
結論から言うと、私は、「ユイ=神=リリス」であったと考えます。
なお、エヴァンゲリオンでは「神」という言葉が多義的に使われていますので、注意が必要です。
三位一体
「ユイ=神=リリス」と考える根拠を説明する前提として、キリスト教の「三位一体」の概念を説明する必要があります。
「三位一体」とは、聖書の神は、「創造主たる御父」、「子なるイエスキリスト(御子)」、「精霊」の3つの位格を持つ「唯一の神」であるとする教えのようです。
上記図のとおり、創造主たる御父、御子、精霊は、それぞれイコールではありませんが、3者は全て中心の「唯一の神」とイコールと考えるようです。
これをエヴァンゲリオン新劇場版の世界に当てはめると、次のようになります。
- 1 御子:綾波ユイ
- 2 精霊:幻影のように現れるレイ(≠綾波レイ)
- 3 創造主:リリス
この3者はそれぞれ別の存在でありながら、全てが「唯一の神」であるということになります。
なお、ユイの名は、「唯一の神」の「唯」からとられたのかもしれません。
御子 人としての神の子:綾波ユイ
まず、御子、すなわち「人としての神の子」について考えます。
これは言うまでもなく、碇ゲンドウと結婚し、碇シンジの母となった、人間としての綾波ユイのことです。
この考え方からすると、シンジは「神児」(神の子)でも、「神の子の子」ということになります。
エヴァを作り出した者
コミック第5巻における加持リョウジの説明によると、ユイは、生物工学の先駆者で、エヴァの基礎理論を解き、エヴァを作り出した者とされていました。
この設定は、新劇場版においても変更されていないと思われます。
2004年に初号機コアへダイレクトエントリー
ユイは、自らの意思で初号機コアにダイレクトエントリーしました。
冬月コウゾウ「エヴァの極初期型制御システムだ。ここでユイ君が発案したコアへのダイレクトエントリーを自らが被験者となり試みた」
エヴァンゲリオン新劇場版:Q シンジと将棋を打つシーン
初号機コアにダイレクトエントリーしたのは、西暦2004年です。
新世紀版(テレビアニメ版15話、コミック第5巻)では、ユイの墓標には「1977-2004」と刻まれていましたが、新劇場版:破では「2004」とだけ見えていました。
誕生日を不明にすることで、より「神」感を出す意図があったのではないかと思われます。
綾波シリーズのオリジナル
人間としてのユイの肉体は、綾波シリーズ(アヤナミタイプクローン)のオリジナルとされました。
冬月「君の知っている綾波レイはユイ君の複製体の1つだ。その娘も君の母親同様、初号機の中に保存されている。全ては碇の計画だよ」
エヴァンゲリオン新劇場版:Q シンジと将棋を打つシーン
つまり、白レイ(白波)と黒レイ(黒波)は、ともにユイのクローン(コピー)です。
ゲンドウの「神殺し」の対象
シンエヴァラストにおいて、ユイとゲンドウが、初号機と第13号機とともに、ガイウスの槍で心中した際、シンジは、「やっと分かった。父さんは、母さんを見送りたかったんだね。それが父さんの願った神殺し」と言いました。
エヴァにおける「神殺し」とは、神の理(ことわり)に従わないことを意味するものと考えていますが、ゲンドウは、ループするエヴァ世界において、永遠に御子という大役を続けていたユイを殺してあげることで「神殺し」を達成しようとしていたと考えます。
目的はシンジによるネオンジェネシス
御子としてのユイの目的は、シンジによってネオンジェネシスを達成させることでした。
精霊:幻影のレイと鳩
次に、「精霊」について考えます。
序の冒頭シーンと、シンエヴァのネルフ第2支部N109棟跡において、シンジの前に一瞬鳩とともに幻影のようなレイが現れました。
あれは、明らかに「綾波レイ」とは別の存在です。
「綾波レイ」(白レイ)は、序の冒頭ではケガをしてネルフ本部にいましたし、シンエヴァでは初号機に取り込まれたままになっていたからです。
序の同シーンにおける画コンテでも、「レイのイメージ」とされており、「レイ」とは書かれていません。
そして、鳩は精霊の象徴とされています。
幻影のようなレイが現れるシーンは、ユイが、シンジに対し、精霊によって、闘いの始まり(序)と最後の戦い(シンエヴァ)をそれぞれ啓示した場面だったのではないでしょうか。
創造主:リリス
最後に、創造主について考えます。
序の、ダイヤモンドのような第6の使徒戦において、葛城ミサトは、「この星の生命の始まりでもあり終息の要ともなる第2の使徒リリスよ。サードインパクトのトリガーとも言われているわ」と言っていました。
つまり、新劇場版のリリスは、リリン(人類)だけでなく地球の全ての生命の祖になっていますので、創造主、主なる神、地球の神といって差し支えないと思います。
ユイ=神=リリスの根拠
上記の三位一体で説明したとおり、「ユイ≠リリス」ですが、「ユイ=神=リリス」となります。
ユイとリリスが同質の存在であることは、以下のとおり、劇中でも描写されていました。
根拠1:ゴルゴダオブジェクトでの説明
シンエヴァのゴルゴダオブジェクトにおいて、ゲンドウは、シンジに対し、次のように言いました。
ゲンドウ「ゴルゴダオブジェクトだ。人ではない何者かがアダムスと6本の槍とともに神の世界をここに残した。私の妻、お前の母もここにいた」
シン・エヴァンゲリオン劇場版
アダムスと同列的に「私の妻、お前の母も」と言っています。
これは、ユイがアダムスと同等の立場であることを示唆しているものと思われます。
アダムスと同列、同等の存在は、リリス以外に考えられません。
他方、上記セリフはユイがアダムスの内の1人であることを示唆したものであるとも読めなくもないですが、ユイがアダムスの内の1人なのだとすると、次の根拠2を説明できません。
根拠2:巨大アヤナミ顔
Qの(ニア)フォースインパクト前のシーンで、リリスの頭部が巨大アヤナミ顔になっていました。
旧劇場版(新世紀版)では、綾波レイがリリスと同化した後、リリスの仮面が外れて綾波レイの顔に変化しました。
一方、新劇場版では、綾波レイがリリスと同化したシーンはありませんでした。また、ユイも初号機と同化していたためリリスとは同化していません。
つまり、新劇場版のリリスは、最初からアヤナミ顔(ユイの顔)だったと考えられるのです。
リリスとユイの顔が同じであるということが、リリスとユイが同質的存在である(リリス=神=ユイ)の根拠となります。
しかし、そうすると、同シーンにおいて、ゲンドウがリリスの頭部に対し、「最後の契約の時が来る。もうすぐ会えるなユイ」と言ったことがひっかかります。
本人を目の前にして「もうすぐ会えるな」というのは不自然だからです。
しかし、ここでの「ユイ」、つまりゲンドウが会いたいと思っている「ユイ」は、目の前にいる創造主、地球の神(リリス)としてのユイではなく、妻としての、人間としての御子ユイを指していたと考えれば、矛盾しません。
繰り返しになりますが、「ユイ=神=リリス」であって、「ユイ≠リリス」なのです。