今回は、エヴァンゲリオン新劇場版における、初号機と第13号機の擬似シン化形態について考察します。
擬似シン化とは
劇中において、擬似シン化した機体は、初号機と第13号機のみでした。
「シン化」とカタカナ表記されているのは、「神化」と「進化」の2つの意味を持っているためと思われます。
「擬似」とは、「本物ではないが本物と見分けがつかない」ことを意味します。
つまり、「擬似シン化」とは、神そのものではないが、神と同等の存在に神化(進化)することを意味すると考えられます。
この点について、旧劇場版の、サードインパクトにおける冬月コウゾウの次のセリフが参考になります。
冬月「使徒の持つ生命の実とヒトの持つ知恵の実。その両方を手に入れたエヴァ初号機は神に等しき存在となった。そして今や、命の胎芽たる生命の樹へと還元している。この先にサードインパクトの無からヒトを救う方舟となるか、人を滅ぼす悪魔となるのか、未来は碇の息子に委ねられたな」
旧劇場版 まごころを、君に
つまり、生命の実と知恵の実の2つを所持すると神に等しい存在になると説明されており、新劇場版における「擬似シン化」も同様の意味であると考えます(ただし、後述するとおり、擬似シン化するには他にも条件があります。)。
エヴァ初号機
まず、初号機の擬似シン化について考察します。
コピーに生命の実と知恵の実は引き継がれない
前提として、私は、初号機がリリスのコピーから造られている唯一の機体であると考察していますが、初号機はもともとアンビリカルケーブル(電源)がないと動きませんでした。
2号機などアダムスのコピーを素体として造られた機体も同様であるため、コピーを素体にした機体は、少なくとも生命の実(S2機関)を持っていないことは確実です(動力源がないと動けない)。
そうだとすれば、オリジナルが持っている生命の実や知恵の実は、コピーには引き継がれないと考えることができます。
したがって、リリスのコピーである初号機は、本来、生命の実も知恵の実も所持していなかったと言うことができます。
ユイと第9使徒から2つの実を得た
では、初号機は、いつ生命の実と知恵の実を得たのでしょうか。
知恵の実を得たのは、碇ユイが初号機コアにダイレクトエントリーした時と考えられます。
生命の実を得たのは、破の、「浸食タイプ」第9使徒に浸食された3号機のエントリープラグを噛み砕いて(捕食して)殲滅したときだと思われます。「最強の拒絶タイプ」第10使徒を取り込んだときと考える余地もありますが、第10使徒の役割は、ニアサードインパクトの贄(にえ)だったと思われます。
擬似シン化第1覚醒形態
破のラスト「最強の拒絶タイプ」第10使徒戦において、初号機は、電源が尽きて活動限界を迎えた後、碇シンジの目が赤く光り「綾波を…返せ!」と言うと、初号機もこれに合わせて覚醒し、再起動して第10使徒を圧倒しました。
シンジの目に合わせて初号機の目と装甲の一部が赤く光り、切断されていた左腕が光の腕となって再生し、ビームを出すなど戦闘能力が大幅に上昇しました。
また、頭上には天使の輪(エンジェルハイロウ)が出現しました。
このときの初号機が、擬似シン化第1覚醒形態と呼ばれています。
序の第4使徒戦のときのような「暴走」とは明確に異なります。
「暴走」がシンジを守ろうとするユイの意思によるものであるのに対し、「覚醒」はシンジの強力な意思、決意(綾波レイ(白レイ・白波)を救いたい)によるものです。
シンジの覚醒シーンの画コンテ1733にも、初号機の目がシンジと「同じ色に光る」とされており、「覚醒」がシンジ主導によるものであることが分かります。
また、パイロットは、「覚醒」すると、シンクロ率が大幅に上昇しますが、エントリープラグの深度(コアまでの距離)が高まり、エヴァの汚染を受けてヒトに戻れなくなります(半使徒化、エヴァの呪縛)。
伊吹マヤ「プラグ深度180をオーバー!もう危険です」
赤木リツコ「やめなさいシンジ君!ヒトに戻れなくなる!」
エヴァンゲリオン新劇場版:破
覚醒とは
上記と同様のシーンが他にもあります。シンエヴァの、マイナス宇宙で初号機と第13号機がゴルゴダオブジェクトへ向かう前のシーンです。
初号機のエントリープラグには、髪が伸びた白レイ(の魂)が座っており、シンジに対し、「ごめんなさい。碇君をエヴァに乗らないで済むようにできなかった」と言いました。
白レイは、ニアサードインパクトの際に初号機に取り込まれてから、14年もの間、シンジが初号機に乗れないように、ずっとエントリープラグ内にいたのだと思われます。
白レイ(白波)の考察はこちら → ニアサー時の冬月のセリフ「やはりあの2人で初号機の覚醒は成ったな」の意味についても考察しています。
シンジが「いいんだ。ありがとう綾波。あとは僕がやる」と言うと、シンジの目が赤く光り、ゲンドウが「初号機パイロットが覚醒したか」と言いました。初号機の目も赤く光り、切断されていた四肢が再生しました。
ニアサードインパクトとマイナス宇宙における2つのシーンを見ると、シンジがした「覚醒」とは、強い意思、決意によって、初号機とのシンクロ率が大幅に上昇した状態を意味すると思われます。
ここまでをまとめると、擬似シン化第1覚醒形態になるには、生命の実と知恵の実を持っただけでは足りず、さらにパイロットの覚醒が必要であることが分かります。
初号機のリリス化
次のリツコのセリフは、後述する擬似シン化第2形態になった際のものですが、擬似シン化した初号機について説明されています。
リツコ「ヒトの枠にとどめておいたエヴァが本来の姿を取り戻していく。ヒトのかけた呪縛を解いて、ヒトを超えた神に近い存在へと変わっていく。天と地と万物を紡ぎ、相補性の巨大なうねりの中で、自らをエネルギーの凝縮体に変身させているんだわ。純粋にヒトの願いをかなえる、ただそれだけのために」
エヴァンゲリオン新劇場版:破
上記のとおり、私は、初号機はリリスのコピーであると考察しています。
そうすると、「本来の姿」「神」とは、リリスを指しているものと考えます。
なお、劇中では、様々な対象が「神」と呼ばれていますが、この点は別途考察しています。
リツコのセリフは、リリスのコピーにすぎなかった初号機が、生命の実と知恵の実を得て、さらに魂の代わりであるパイロット(シンジ)が覚醒したことで、オリジナルのリリスに近い存在になったことの説明であると思われます。
そうすると、初号機の擬似シン化第1覚醒形態とは、初号機のリリス化であると言うことができます。
なお、オリジナルのリリスは第2使徒ですので、リリス化した初号機(+シンジ)も使徒になった、つまり第11使徒になったと考察しています。
紫と赤のカラーリングの意味:大バビロン
なお、擬似シン化した初号機は、もともと緑だった部分が、オレンジに近い赤(緋色:ひいろ)に発光しました。
このカラーリングの変化は、新約聖書のヨハネ黙示録に登場する「大いなるバビロン」(大淫婦バビロン)がモチーフにされているのではないかと考えます。
この女は紫と緋(赤)の衣をまとい、金と宝石と真珠とで身を飾り、憎むべきものや自分の不品行の汚れで満ちている金の杯を手に持っていた。
その額には、1つの名が記されていた。すなわち、「大いなるバビロン、淫婦どもと地の憎むべきものらとの母」という名であった。
ヨハネの黙示録 第17章第4節、第5節
擬似シン化第2形態
第10使徒を取り込んだ初号機は、擬似シン化第2形態と呼ばれています。「覚醒形態」とは言わないようです。
ガフの扉を生じさせ、浮遊することができました。第10使徒のコアから零号機のコア(レイ)を取り出した後は、三つ目になり、2つのコアが現れ(初号機と零号機のもの、あるいは生命の実と知恵の実)、多数の光の翼が出現しました。
擬似シン化第2形態になった初号機は、ニアサードインパクトを起こしました。
インパクトの発生には、トリガーと贄(にえ)が必要ですが、オリジナルのリリスと同等になった初号機がトリガーとなり、第10使徒を贄にしてニアサードインパクトを生じさせました。
擬似シン化第2形態とは、第1覚醒形態から、さらに贄を得た状態であると言えます。
加持リョウジ「数が揃わぬ内に初号機をトリガーとするとは。碇司令、ゼーレが黙っちゃいませんよ」
エヴァンゲリオン新劇場版:破
インパクトのトリガーとほぼ同義
以上のとおり、擬似シン化第2形態は、第1覚醒形態からさらに贄を得た状態です。これは、インパクトを起こすトリガーとほぼ同義であるということになります。
なお、インパクトのトリガーには、単独でインパクトのトリガーになれる者(初号機、第13号機)と4体でトリガーになる者(第13号機以外のアダムス)とがいます。
この理由については、アダムスとリリスは共に熾天使(してんし)であり、リリスと第13号機(アダムスの生き残り)はその中でも特別な存在(ルシファーとミカエル)であるからと考察しています。
初号機の擬似シン化条件まとめ
初号機の擬似シン化の条件をまとめると、次のとおりです。
擬似シン化第1覚醒形態(リリス化)
- 1 生命の実と知恵の実を保有すること
- 2 魂の代わりであるパイロットが覚醒すること(強い意思、決意によってシンクロ率が大幅に上昇すること)
擬似シン化第2形態(インパクトのトリガー化)
- 3 贄を得ること
エヴァ第13号機
次に、第13号機の擬似シン化について考察します。
擬似シン化第3+形態(推定)
Qラストの(ニア)フォースインパクトの際、第13号機は、第12使徒を嚙み砕くと、白色化し、二重の天使の輪(エンジェルハイロウ)が出現しました。
第12使徒を贄(にえ)とし、(ニア)フォースインパクトのトリガーになりました。
このときの第13号機は、擬似シン化第3+(プラス)形態(推定)と呼ばれています。
シンエヴァのフォース(アナザー)インパクトの際に、第9使徒化した式波アスカのエントリープラグを噛み砕いて贄にした際も同じ状態であったと思われます。
「擬似シン化形態を超えている」の意味
Qで擬似シン化第3+形態(推定)になった第13号機をみて、アスカは、「こいつ、擬似シン化形態を超えている」と言いました。
また、マリは、「覚醒したみたいね。アダムスの生き残りが」と言いました。
上記のとおり、初号機はリリスのコピー(クローン)であるところ、コピーにはオリジナルが持っていた生命の実と知恵の実は引き継がれないと考察しました。
これに対し、「アダムスの生き残り」である第13号機は、セカンドインパクトを生き残ったアダムスのオリジナルです。
アダムスのオリジナルは、始めから生命の実と知恵の実の両方を持った存在です。
新世紀版(テレビアニメ版、旧劇場版)では、「生命の実のアダム」と「知恵の実のリリス」という対立構造でしたが、新劇場版では、アダムスとリリスは共に生命の実と知恵の実の両方を持った存在になっていると考察しています。
アダムスとリリスが共に2つの実を持った存在であることの考察はこちら
そうすると、第13号機は、初号機と異なり、魂の代わりとなるパイロットの覚醒さえ起きれば、初めからシン化できる状態になっていたということができます。
また、オリジナルである以上、「神に近い存在」ではなく、「神そのもの」であるため、純度の高いシン化が起きたと考えらえます。
これが、アスカが「こいつ、擬似シン化形態を超えている」と言ったことの意味であると思われます。
名称が「推定」である理由
ところで、第13号機のシン化は、擬似シン化第3+形態(推定)と呼ばれています。
なぜ「推定」(はっきりとしない事を推測で定めること)なのでしょうか。
冒頭で述べたとおり、「擬似」とは、「本物ではないが本物と見分けがつかない」ことを意味します。
第13号機は、オリジナル(本物)のアダムスであるため、そもそも「擬似」シン化という表現がミスリーディングだと言えます。
そのため、第13号機のシン化の名称は、あくまでも「推定」(断定しないので視聴者で考えて下さいとの意味合い)とされたのだと考えます。